ふと、上野東署前を通った。
思った以上にゴタゴタしてる ―― 詐欺師を捕まえるのに躍起になってるみたい。
別に私には関係ない。
だって敵同士だもんね。
何食わぬ顔で通り過ぎようとしたら、誰かに呼ばれた気がした。
「おい」
「へ?」
警察署の方を向くと、見覚えのある顔が映った。
クロちゃんなら嫌な顔をするだろうけど、私は笑顔を向ける。
「あー神志名さんだぁ!」
馴れ馴れしかったみたい ―― 呼ばれた本人はムッとした表情を見せた。
「お前、あのクソガキと仲良かったよな。此処で何してる?」
「令状はー?」
ニコッと微笑んでやった。
案の定、睨まれる。
まぁ教えてあげてもいいんだけどね・・・私はため息を吐いて答えた。
「区役所に用があるのだ!暇だからクロちゃんを手伝おうと思ってね」
不敵な笑みを見せて、神志名さんを更に不快にさせる。
この人、クロちゃんを捕まえようと頑張ってるんだって。
あのクロちゃんだよ?大変だと思うなぁ。
私には関係ない ―― けど、彼の味方ってことだけは自覚してるよ。
仲良く喋ってる姿をクロちゃんが見たら、「お前何やってんだよ」って言われそうだなぁ。
「神志名さんは何してるの?」
解っていながら訊いてやった。
すると彼の眉間の皺が深まる。
「知ってるくせに訊くな」
「なぁんだ、解ってたのか」
つまんないとばかりに肩を竦めた私を睨み、
「あいつを手伝ってるって言ってたからな」と答えてくれた。
クロちゃんは毛嫌いしてるけど、私は別に嫌いじゃないなぁ。
ただ、相容れることが出来ないだけ ―― それだけの関係だから思うのかもしれない。
「じゃあそろそろ行くねー」
能天気な声を空に響かせ、私は歩き始める。
「待て、小娘」
「小娘ぇ!?」
クロちゃんが “クソガキ” なら私は “小娘” ですか!?
抗議の声を上げようと振り返ったけど、神志名さんのほうが先に口を開いた。
「お前もムショに入れてやるからな・・・必ず」
迫力のある表情に目を丸くしてしまったけど、すぐに笑みを作った。
「簡単にはいかないよ。私も ―― クロもね」
対決の日を楽しみにしておきましょう。
一瞬だけ動向を細めて冷たい笑みを浮かべ、私は踵を返して区役所へ向かっていった。
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固定ヒロイン設定で神志名さん夢・・・いや、夢じゃないな(苦笑)
一生懸命追いかけてくる姿を面白そうに見学してそうですね、彼女。
クロと神志名さんのやり取り ―― 彼女が入ったら大変なことになりそうだね・・・。