ないしょ、ないしょ、ないしょの話。
 誰も知らない、 "始めまして" 。
 ・・・いーや、たった一人だけ知ってたかも?

 とにかく、私が知らない "始めまして" 。





English Word Story - Nice to Meet You! -






 私は、いつも通り "アシンメトリー" で笑顔を振りまいていた。
 勿論隣にはノエルさん・・・と、言いたいところなんだけど。

 物語は、1時間半前に遡る。



ちゃん、一生のお願いがあるんだけど」
 笑顔で言われたものの、言葉が言葉だけに、思わず顔をしかめてしまった。
 ノエルさん・・・大人らしくないですよ、一生のお願いなんて。
 でもそんなこと言えるわけもなく、一瞬で笑顔に戻す私も凄いかも?

「なんですか?ノエルさん」
「実はね、隣町で "ケーキコンテスト" があるんだよ!」

 意気揚々と言われた言葉に、唖然としてしまう。


 ケーキコンテスト??
 そういえば数日前にポスターが届いたっけ。
 店の前で風を受けながらも留まってるポスターを、中から見てみる。
 ・・・いや、だからってなんでノエルさんが楽しげに行こうとしてるんだろう?
 私は疑問のまま、彼に訊いてみることにした。

「ノエルさん、それがどうかしたんですか?」
 ニコニコしてたノエルさんは、少し心配そうな表情に変化する。
「いやぁ、コンテストに出場しないかって言われちゃってね? 行ってみたいんだけど・・・店があるし」


 何が言いたいのかはわかんないけど、それなりに少し察知してしまった。
 確かにノエルさんが作るケーキは絶品だし、特にチョコレートケーキなんてほっぺが落ちるほど美味しい!
 私の提案で店に置いてみることにしたんだけど、数個限定のチョコケーキは名物になったんだよね。

 腕が良いノエルさん、コンテストに出場したいわけだ。
 でも、お店の経営があるから行きたくても行けない状況らしい。
 ・・・で、私に "一生のお願い" なんだ。
 思うや否や、私はノエルさんが続きを言う前に言ってしまってた。



「お店だったら、私一人でも大丈夫ですよ。行ってみたらどうですか?」

 その言葉にノエルさんは驚いてたけど、徐々に子供がはしゃぐような顔になっていった。



「・・・ちゃん、いいの!?」
「勿論です。行ってきて下さい」
 笑顔でそう言うと、彼は本当に嬉しそうな表情をして、奥の部屋に入っていった。

「絶対コンテストで一番取ってくるからねー!!」
 本当にチャーリーが見せそうな無邪気な表情で言ってくれた声が、店中に響いてた。





 そんなわけで、ノエルさんは今不在。

 それでも私はきちんと仕事をこなしてるんだよね。





 会計を済ませて、品物を渡す。
 そして、ドアに向かうお客様に向かって、こう言うの。
「ありがとうございました。バーナードさん、また来てくださいねーっ!」

 お得意様のバーナードさんを見送ると、此処でいったん休憩がもらえる。
 だって店内は誰も居ないんだもん。
 ノエルさんも居ないから、私はゆっくりと商品の補充にかかった。
 今の時間は・・・2時ごろか。
 丁度子供たちも大人たちも来ない時間帯なのよね。

 "ウォンカブランド" のチョコレートを棚に補充しながら、ボーっと考え事。

 あーあ、暇だなぁ。
 そういえば、このチョコレートって絶大な人気を誇ってるよね。
 ウォンカさん・・・だっけ? 工場が近いはず。
 でもこの人、全っ然顔を出さないらしいじゃない。

 変な人よねー・・・。



 そこで思考をストップ。
 チリンチリン、と扉についているベルが可憐に鳴り響いた。
 私は踵を返してベルが鳴ったほうに笑顔を向ける。

「いらっしゃいませー!」
 "明るく、元気に!" がモットーの私は、挨拶だって元気よくする。



 だけど・・・思わず怪訝な表情をあからさまにしてしまった。
 変なシルクハットを被ってて、少し流行遅れな服を身に纏ってる。



 ・・・なんだこの変な人?
 でも、世の中にはこんな格好の人だっているかと思って納得することに。
 だって、サーカスのピエロに向かって 「そんな格好してて恥ずかしくない?」 って訊けないもん。


「えーと、何をお求めですか?」
 店員らしく、扉の前に立ってる人 (しかも背が高い!) の前に来て笑顔を向ける。
 うーん・・・シルクハットのせいでいまいち顔がよく見えない・・・。
 でも綺麗な顔立ちをしてそうな人だと思ったのは、肌が取っても綺麗だったから。

 その人はにこっと微笑んで (口元しか見えなかったけど) 、こう言った。



「此処に絶品のチョコレートケーキがあるらしいんだけど、君知ってる?」



 チョコレートケーキって言えば、ノエルさんが作るもの。
 つーか店員だし、勿論知ってるに決まってんじゃん・・・でもそんなこと言えるわけない。

「はい、今お持ちしますね」
 営業用の笑顔を貼り付けて、店の奥に引っ込む。
 実は、まだ補充してないのよ。
 ウォンカブランドの後に並べようと思ってたけど、一つだけカウンターに持ってくる。

「こちら、特製ガトーショコラです」
 透明のラッピングだから中が見える・・・綺麗な茶色のチョコケーキ。
 それを見たお客様は、 (目は見えないけど) 輝いた表情をしたように思えた。


「こちらでよろしいですか?」
「勿論!凄く美味しそうじゃないかっ!!」
 子供の如く陽気な声を上げて、彼 (?) はケーキを手に取る。


 その様子が、何処か本物の子供のように見えてならなかった。
 といっても、外見はもうすっかり大人なんだから、それがまた可笑しく思える。

 微笑ましい意味で、ふふっと笑ってしまった。





「それはそうと、君はなんていう名前だい?」
 と、お客様はショコラから目を離して私のほうを見た。
 でもやっぱり目は見えないから表情が読めないんだけどね。

 にっこりと微笑んで、答えてあげる。
 だってこの人、悪そうに見えないんだもの。
 寧ろとても優しい・・・いい人のように思えるから。
です。お客様は?」


 彼の口は微笑んでいた。

「ボクは・・・ウィリーさ!」





"ウィリー" さんは、嬉しそうな足取りでノエルさん特製ケーキを買って帰った。
 それ以来、彼の姿は見てない。
 それからしばらく時は経ち、あのウィリー・ウォンカさんから声明が発表される。

 皆さんはお気づきですよね?
 でも私はあのときも・・・時が経ってからも、誰だったか気づいてないのでした。





 ないしょ、ないしょ、ないしょの話。

 別に "ないしょ" じゃないんだけど、私だけが知らない話。



 気づかない間に、「はじめまして」は済んでいたりして。






author's comment...
 なんじゃこりゃあああぁぁっ!!!!!(絶叫)
 ゴタゴタじゃないか!!もう訳わかんないですよね・・・。
 いや、実はとウォンカさんは工場内に入る前に会ってたってのが言いたかったんです。
 もう何が言いたいのかさっぱりな感じですけどね・・・。

 つか、普通変な格好だったら覚えてますよね。
 気付くはずなんだけど、まぁそこは目を瞑っててくださいね(汗)
 もう一つ言わせて貰えば・・・ノエルさん、何処までお菓子好きなんだよ(笑)