いつもの家、いつもの部屋。
 机に肘を乗せて、つまらなさそうに本をめくる。

 あーあ・・・暇だなぁ。
 そんな時、窓の向こうから聞こえたのは声楽隊の声。





English Word Story - Music -






「暇だー・・・チャーリーは仕事だし、ウォンカさんは来ないし・・・暇だなぁ」

 私のため息も、空気と同調するだけだった。
 チャーリーやウォンカさんの居場所がわかれば行くのに・・・でも此処は巨大な工場内。
 場所は愚か、同じ部屋の中にいても気付かないかもしれない。

「遊びに行こうかなぁ。でもウォンカさんがうるさいしなぁ」
 さっきまで読んでいた本をポイッと投げる。
 ・・・落ちる音がしない。
 ひょっとして投げる方向間違えて、窓から落ちたかも?

「・・・で、でも取りに行かないもん」
 面倒っていう理由もあるけど、暇つぶしが見つかってから動き出す予定。

 あーあ、こんなに大きな草原なのに、もったいない。
 遊ぶ人がいればいいのに。
 不満のため息を漏らしながらも、私の視線は窓の向こうへ移される。
 と言っても、うつ伏せたままだから全く見えないけど。



「・・・ん?」

 今、何か聴こえなかった?
 顔を上げ、机を上る。すると、窓の前に座ってるようになるのよね。
 目の前にある少し大きな窓から、ひょこっと顔を出す。

 ・・・あ、下に本が落ちてる。
 でもそれが見たいんじゃなくて、何か聴こえたから見てるのよ。

 窓枠に手を乗せ、落ちない程度に前へ乗り出す。


「誰か歌ってなかった・・・?」

 乗り出すと聴こえてくる、男の人のような太い声。
 楽しそうに歌ってるみたい・・・でも、大勢の人がいるみたい。
 大勢の人がこの工場内にいることが珍しいよーな?

 そう考えて、一つの考えに達した。



「そういえば、ウンパ・ルンパたちって歌を歌うのが好きだったっけ」
 ウンパ・ルンパたちならかなりの人数がいるだろうし、大合唱になるはずよね。
 楽しそう・・・私も行ってみようかなぁ。





、何してるんだい?」
 ふと、本が落ちてたあたりから声が聴こえる。
「ん?・・・あー、ウォンカさんだぁっ!!」

 下を向くと、怪訝な面持ちで見上げてるウィリー・ウォンカさんが。
 あ、本を拾ってくれてる。
 上を向いてるから帽子が落ちそうになって、慌てて抑えてた。

「ウォンカさん今暇!?遊びましょうよ・・・ぉおっ!?」
 手を片方離したせいか、グラッと体が大きく揺れた。



「わっ、やばっ・・・」



 身の危険を感じたのもつかの間、付いてた片手も離れてしまう。
 やっぱり工場内でも重力は働いてるみたいで、体全体が窓の外へ投げ出されてしまった。

 きっと下にいたウォンカさんも息を呑んでしまったかもしれない。





「ぅわわぁっ!!」





 重力に逆らうことなく、私は自分の体が落ちていくのを感じた。

 空に飛べることもなく時期に地面にぶつかる・・・うわぁ死ぬっ!!





 反射的に目を瞑り、あの時窓枠に乗り出さなきゃよかった!と後悔していた。

 あぁ私の馬鹿っ!!
 気になるならちゃんと下りてから見ればよかったのよー!!
 そもそも窓枠から落ちるなんて聞いたことないわよ!・・・いや、あるけど。
 工場内で事故!?更に私が死んだら工場が再び閉鎖!?
 うわぁウォンカさんごめんなさいっ!!本っ当にごめんなさい!!
 だってやってしまったんだもん!!チャーリーにも最期に会いたかった・・・!
 こんなことならウォンカさんのことを早くファーストネームで呼んでおけばよかった!!
 だって絶対吃驚するだろうと思ってて、心の底でいつ呼ぼうか機会を待ってたのに・・・
 死んだら呼べないじゃーん!!私の馬鹿ーっ!!!





 ドサッと体全体に衝動が感じられた。 

 あぁ私はもう死ぬのね・・・救急車に運ばれるに決まってる。
 ・・・あれ?まだ記憶がはっきりしてる。
 うーん、幽体離脱?




「・・・・・・?」

「・・・・・・へ?」

 ゆっくり、ゆーっくり目を開けてみる。
 ・・・目の前にあるのは、瑞々しい色をした緑の草。
 ついでに言えば、少し離れた場所にある・・・ってことは、私が浮いてるってこと?

ー? 怪我はない?」
 上の方から声が聴こえ、私はどうにかして振り向いた。





「・・・ウォンカさん?私、どうなってるんです?」
 ウォンカさんは私が混乱してるだけで怪我はないとわかったのか、笑顔になって答えてくれた。
が落ちてきたのを、僕が受け止めた!日桜は今うつ伏せの状態で僕に抱えられてるのさ!」
「・・・聞かないほうがよかったかも」


 私の後悔は何だったんだか。
 渋るウォンカさんをつねってまでして下ろしてもらい、改めて見ていた方角へ目線を移す。

 やっぱり、ウンパ・ルンパだ。
 楽しそうに歌ってる声が聴こえる。





「何見てたの?」

 ウォンカさんも同じ方向を見てるのか、疑問系の言葉が聞こえた。
 私は答えることなく・・・聞き入ってたのかな、よく聞こえる場所まで歩いていった。


「おぉ〜・・・楽しそう・・・」
「日桜?何が??」
「ウンパ・ルンパですよ。ほら・・・聴こえませんか?」

 ウォンカさんは耳を澄まし、そしてパァッと道が開けたような明るい表情をした。

「楽しそうだ!」
「ですよね。いつもあんな風なんですか?」
「まぁね。カカオ豆が嬉しいんだな、きっと」
「なるほど・・・ウォンカさんのおかげだ!」
「その通り!」

 なんだかんだと話をしてると、チョコレートの滝が大きく見えるあたりまでやってきてしまった。
 あ、ウンパ・ルンパたちがいっぱい踊ってる。



「・・・ねぇ、これ何の歌?」

「えっ!?ウォンカさんも知らないのに私が知るわけないでしょ!?」





 ウンパ・ルンパたちはクラシックのような優しく可愛いメロディを奏でていた。
 少し聞いただけで私の心を射止めて離さない。
 だって綺麗で可愛いんだもん! (ウンパ・ルンパの顔は凄いけど)


 さっきまでこれが聴こえてたんだ。
 納得の表情をしていると、ポンッと手を叩く音が聴こえる。
 ・・・あれ?確かにウォンカさんも納得の表情をしてるけど、私とは何処か違うような気がする。



!」

「・・・何?」

「これはの歌だよ!」

「・・・はっ!?」





 なんだって!?

 そう考えるや否や、私は耳をダンボにして歌詞を聞く。





 ♪
  世界でたった一人きり この世の全て、この世の詠歌!
  世界でたった一人きり あんな美人はこの世にいない!

   彼女の雰囲気は
  チョコの甘さを 感じさせる
   優しい一言・優しい一時
  彼女は作るの お手の物

  世界一のショコラティエもびっくり!
  探しても見つからない 工場内じゃなきゃ味わえない!





「・・・・・・・・・・・・・・・」

 な、なんじゃこりゃ・・・。
 私はしばらく何の反応も出来なかった。

 一方の、 "自称" 世界一のショコラティエさんらしいウォンカさんはニヤニヤと。

「ね?の歌だ」
「・・・・えーと・・・あの歌を歌ったことで、カカオ豆幾つの報酬があるんです?」
 精一杯のツッコミがこれかい。
 でも私にしては頑張った方だと思うんだけど。


 だって、だってっ!!
 あれだけ褒められて、しかも本人の口からじゃなくてウンパ・ルンパに言わせてるし!!
 どう答えりゃいいってのよ!!

「カカオ豆?・・・君はまだ解ってないようだね。あれは彼らが勝手に歌ってるんだよ」
「嘘でしょ。ウォンカさんが言わせてるに決まってるわ」
「ウンパ・ルンパにも君が素晴らしい人だってことが解ってるって言うことだね」
「お世辞にもほどがありますよ、 "ウンパ・ルンパ" さん」

 わざと皮肉交じりに言ってやると、少し反省 (?) したようでシュンとなってる。


 何でへこむんだか・・・。
 そう思いながらも、私はその暗さをかき消すような声を出してあげる。





「私としては、ウォンカさんの歌が一番好きだったなー」





 そう言うと、この人はさっきとは比べ物にならないくらいの明るさを取り戻してくれる。

 ・・・やっぱ子供みたい。
 そう思ったけど、きっと私は明るいウォンカさんを好いてるんだろうね。

 じゃなきゃいちいちフォロー入れないもん。





「よし、!今度は僕が歌ってあげよう!!」
「えっ!?それは結構です。」
「なんでだい?遠慮することはないさ!」
「遠慮してませんってば!」


 ウンパ・ルンパのクラシックを聞きながら、私たちは他愛ない会話を再開させた。






author's comment...
 えーと、音楽と言うことで・・・こうなってしまいました。
 本当ならちゃんを歌わせたかったんですが・・・(汗)
 いや、当初のコンセプトは、

 が自宅の2階で歌う
    ↓
 ウォンカが下にいる
    ↓
 覗きこんで落ちる
    ↓
 ウォンカ下敷き、そこでがまた歌う・・・みたいな感じだったんですが。
 でも歌と言えばウンパ・ルンパだよなということで、の歌を歌わせて見ました。
 これもウォンカさんを始め、ベルーカやマイクたちの歌も参考にしながら考えました。
 ちゃんを褒めてますかね??
 あと映画通りの雰囲気をつかめてますかね??
 それが心配だったりします・・・。