Pain is EVIDENCE of LifeTime #6
 CSIに帰ったは、ラボに篭って最優先で分析を始めた。
 途中、何度も欠伸をする ―― 鎮痛剤の副作用が睡眠を促しているせいだ。
 しかし全員が超過勤務で寝ていない。
 怪我をしたからって彼女は眠ることを選択せず、DNA分析に精を出していた。

 ハンドルや助手席についていた血痕も、銃口に付着していた血痕、更にロイドの服にべっとりついていた血。
 全てがブリジットのものだと、DNAが証明してくれた。
「・・・これで犯人が誰か解ったわ」
 が嬉しそうに微笑んで立ち上がり、ラボを出た。
 行き先は尋問室の隣にある監視室。
 恐らく皆が集まっているはずだ ―― ロイドの供述が聞きたいのだろう。
 もその一人だった。
 だから分析結果を持って監視室へ向かった。





 ドアを開けたは、もうスピードルとデルコが来ていることに気付いた。
「あれ、早いわね」
「まぁな」
 スピードルは親指で指差す ―― マジックミラーの先だ。
 彼らの間に立ったは、尋問室を見渡した。
 尋問室の机にホレイショ ―背中しか見えないが― と見知らぬ男が向かい合って座っている。
 間に立つようにセヴィリアが立っていて、口を開いた。
『ロイド・カーペンターね』
 マジックミラーを越えて彼女の声が聴こえる。
 ホレイショの前に座っている男が答える ―― 彼が、たちが探していたロイドだ。
 尋問を聞いていたが、は思い出したかのように言った。
「そうだ、2人ともこれ見て」
 先ほどの分析結果をスピードルとデルコに見せる。
「やっぱりロイドが犯人だね」
 デルコが嬉々とした表情で言った。も頷く。
「それにしても、こいつも馬鹿だな」
「何で?」
「自分まで捜査の手が回らないと思って放置してたんだろ」
「確かにね」
 分析結果をに返し、今度はデルコが結果を報告する。
「銃の引き金から部分指紋があったんだ」
「嘘!どうだった?」
「見事一致!あともう一人の指紋も発見した」
 すると彼女は思案するように腕を組み、やがて一つの結論に達した。
「もしかしてブリジットじゃない?」
「そうだよ。何で解ったの」
 驚いたデルコに、彼女は自身有り気に笑顔を作った。
「今までの証拠から推理したのさ〜!」
「何だその口調」
 スピードルがからかい、は睨んでやった。
 しかし彼は微笑んでもう一枚分析結果を見せてやった。
「それだけじゃない。ハンドルの血痕についてた指紋もロイドのものだった」
「嘘!さすが伊達に仕事してないわね!」
 そう言ってやると、デルコが不服そうな声で「俺は褒めてくれないの?」と言った。
 振り返って同じ台詞を言うと、満足したようだが。

『何で俺なんだよ!』
 3人はロイドの声にハッとし、再び尋問室を見る。
 その男は発狂したようにホレイショに突っかかっている。しかしホレイショは微動だにしない。
『確かにブリジットやジェシカは知ってる。でも何で俺なんだ!?』
『証拠がそう言っている』
『何だよその証拠って!!あんたたちがでっち上げたんだろ!?』
 尚もロイドはまくし立てる。
 そんな男を冷たい視線で見つめたは、一言洩らした。
「・・・どう?」
「どうも何も、こいつが犯人だろ」
 デルコの意見にスピードルは頷いている。
「相手はチーフだぜ?頑張ってる方じゃん」
「確かにそうかも」
 思わず噴出してしまった。
 小さく笑っていると、監視室のドアが開いた ―― カリーだ。
「何笑ってるの?」
「んー?ロイドが頑張ってるなぁって思って」
 マジックミラー越しにロイドたち3人を見て、悔しそうに顔を歪める。
「もう始まってたのね」
「始まったばっかりだから大丈夫!」
 ね、とデルコたちに言う。
「まだ自供してないよ」
「寧ろこれだけの証拠が出てるのに否定してる。ある意味バカだな」
 2人の言葉にカリーはホッとして、すぐに検査結果を見せた。

が見つけた銃ね、ライフルマークが一致したわ」
「やっぱり!私の血痕も一致した」
「俺たちが調べた指紋も見事一致」
「ってことは?」
 デルコの問いに、全員が微笑んでロイドを見る。


 証拠は教えてくれたのだ ―― 犯人はロイド・カーペンターだと。


 ホレイショも全てが一致するとわかっていたのか、たちが調べていた証拠をロイドに話した。
 きつく冷酷な口調で淡々と話す間、セヴィリアが一時部屋を出た。
 再びドアが開く。さっきまで尋問室にいたセヴィリアだ。
「皆居ると思ったわ」
 苦笑したかと思うと、すぐに真剣な表情になる。
「結果は出た?」
「えぇ、出たわ」
 カリーを始め、全員が結果を渡す。
 セヴィリアは全てを流し読みし、満足したように微笑んだ。
「これを見せれば一発ね」
 監視室を出て、再度尋問室に入っていった。
 机の上 ―ロイドの前― に、先ほどまで監視室にあった証拠の資料を並べていく。
『どうだ。証拠が全て “お前だ” って叫んでるぞ』
 ホレイショが言う ―― 恐らく不適に微笑んでいるだろう。

 何も言葉を発しなかったロイドは、―もう逃げられないと悟ったのだろう― ポツリポツリと供述し始めた。



   ブリジット・・・彼が付き合っていた女性の名前だ。
   付き合い始めたばかりで、仲はとても良かった。
   しかし、妹を紹介されてからその関係は音を立てて崩れ始めた。
   ジェシカ・マーティンは大女優だ。
   ロイドの友達も大ファンで、勿論ロイドも好意を持っていた女優だった。
   そのジェシカがブリジットの妹だったと知り、ロイドの仲で天秤がゆっくりと動いてしまった。
   ブリジットからジェシカへ―――・・・天秤は完全に傾くまでそう時間はかからなかった。
   それでも暫くは姉との関係も進めていった。
   妹とは“親睦を深めるために”食事に行ったと嘘をついて ―― いや、嘘じゃない。親睦は深まったのだ。
   そしてジェシカとばかり付き合うようになり、やがてジェシカの恋人に昇格していった。
   しかし疎かにしていたブリジットもそのことに気付いたらしい。
   彼女は幸いにもジェシカを恨んでいた。ロイドはブリジットを放っておくことにした。
   だが、その附けが回ってきたのか・・・。ブリジットはあの日、話がしたいと言ってきた。
   そろそろ決着をつけたいと考えていたジェシカは、シェアリゾートホテルのプールで会おうと提案した。
   プールが午前0時に閉鎖されることを知っていたジェシカは、抜け道を用意していたのだ。
   手薄な警備の場所、そこは大きな柵のみがある場所だった。勿論間を通ることが出来た。
   午前2時に会う約束を取り付け、ジェシカとロイドはその約束を守っていた。
   2人は気付かなかったのだ ―― ブリジットがどんな思いで会いに行ったのか。

   プールサイドに居ると、向こうからブリジットの影が見えた。
   ジェシカは動くことも無く、彼女が自分の場所まで来るのを待っていた。
   しかし彼女は近くまで来なかった。
   少し離れた場所で、素早く22口径の銃を構える ―― それは護身用の小さな、しかし殺傷力のあるものだった。
   パァン、と高く乾いた音が響いた。
   ジェシカの頭から大量の血しぶきが飛び出て、彼女はそのまま何も言わずにプールへ落ちる。
   即死だったのだろう――・・・目も開いたまま、ジェシカはプールを赤く染めながら浮いていた。
   その際、彼女のポケットから免許証が落ち、沈んでいく。
   ブリジットの計画は成功した、一つの誤算を残して。
   彼はジェシカを本気で愛していたのが、唯一の誤算だとは気付きもしなかっただろう。
   その後、ロイドの近くまで迫ったブリジットは銃をその場に捨てた。
   ロイドは頭に血が上り、ブリジットが捨てた銃を即座にとって、彼女に向かって撃った ―― 躊躇いも無く。
   再び高く乾いた音が響き、彼女の頭からはさっき見たジェシカのように血が溢れ出ていた。
   音を立てて倒れる。頭を撃たれ、彼女も即死だった。
   そこでロイドは我に返る。
   自分は人殺しをしてしまった、そう気付くや否や、隠蔽工作に走った。
   まずブリジットを近くに停めてあったロイドの車へ乗せた。
   更に掃除用のホースで彼女の鮮血を洗い流し、目障りな鞄をジェシカが浮かぶ海へ投げた。
   鞄は落ちていた免許証の隣まで沈んでいった。
   銃をポケットに入れ、ロイドは急いで車を出す。
   そしてブリジットのプライベートビーチまで乗り上げ、彼女を放置してそのまま帰った。
   殺人は怖い。しかし、ジェシカを失った悲しみの方が怖かった。
   ロイドは自分の存在をプールサイドから消したと思った。そう思うことで自分を慰めた。



 ホレイショはロイドの供述を黙って聞いていた。
 それは監視室にいたたちも同じだった。
 供述をし終わり、尋問室と監視室は静寂が訪れた。
 ただ、ロイドの泣き声だけが聴こえていた。


 やがてホレイショが立ち上がる。
 何も言わず、尋問室を出ると監視室のドアが開いた。
「聞いていたか」
 驚きもせず、そう言った。
 全員が何とも言えない表情をしている。
 実の姉であれ、恋人を殺される現場を見れば誰だって心頭まで怒りを覚えるだろう。
 しかし、殺人を許すわけにはいかない。

 暫くして、が呟くように吐いた。
「仲の良い姉妹が、一人の男のせいで殺し合うなんて・・・」
 彼女が一番近い位置に立っているから、信じられなかった。
 しかしホレイショはいつも通りの表情で答えた。

「それが人間だ」





 ロイドはセヴィリアに連れて行かれ、事件は無事解決したようだ。
 再びCSI内にはのんびりとした空気が流れ、それはも同じだった。
 今回の事件のおかげで色んな目にあったからだろう。
 彼女は嬉々とした表情でホレイショのオフィスへ向かった。

 コンコン、とドアを叩くとホレイショの声が聴こえる。
 ドアを開ける ―― 彼は机に着いて考え事をしていたようだ。
 のほうを向き、安らいだ笑顔を見せてくれた。
「どうした?」
「チーフ、ご飯食べに行きましょう!」
 も笑顔を返す。
 しかしホレイショの方はきょとんと不思議そうな表情に変わった。
「何故?」
「事件が解決したからですよ!セヴィリア刑事がCSIメンバー皆で行こうって言ってくれたんです!」
 ほくほくとした笑顔のを、ホレイショはただ見ていた。
 やがて、先ほど彼女に見せた笑顔に戻る。
「そうだな」
「でしょ?そうこなくっちゃ!」
「先に行っててくれ」
「はい!」
 は頷いて踵を返し、ドアへと向かっていった。
 ホレイショはそんな彼女を呼び止める。

「何ですか?」
「傷は大丈夫か?」
 呆気に取られた表情を見せたが、彼女は満面の笑みを返してくれた。
「痛むけど、大丈夫ですよ」
 そして、こう続ける。



「感じる痛みは、生きてる証拠なんですから」



 痛みを感じないのは、死んでいるのと同じですから。
 それだけ呟くと、彼女はオフィスを出て行った。

 一人になったホレイショは暫くきょとんとしていたが、やがて満足そうに微笑んだ。





“ The pain is evidence of life time. ”
“ Painlessness is the same as death. ”
“ Somebody takes life today, and somebody investigates the truth. ”



■ author's comment...

 さて、中途半端ですが終わりました!!
 ・・・ごめんなさい、中途半端で(涙)だっていつも最後のチーフがわからんもん!
 一人で海に佇んだりさぁ(笑)だからこんな終わり方でもいいかなって思ったんです(涙)
 というか、浮かばなかったんです、最後。←ぶっちゃけた
“その痛みは存命の証拠” は如何でしたか?
 私の力不足ということもあり、あっさり犯人が解っちゃいましたけど。
 一応供述も書いてますので、無理やり納得させちゃってください!(無理)
 ・・・今読み返してると、不安になるところが。
 何でプライベートビーチに弾が落ちてんだ!?つーかロイドさん薬莢どうしたの!?
 ・・・ごめんなさい、本当に気にしないでくださいね(涙)

 その痛みは、存命の証拠です。
 無痛は、死と同じです。
 今日も誰かが命を奪い、誰かが真実を探っていく。

 date.06---- Written by Lana Canna


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