Misfortune
「おーい、デルコー?」
珍しく屋外での作業なため、の声も明るい。
湖の上にたった一つ浮かぶ船の上に居るの声は、またしても空の彼方に消えていった。
「まだかなぁ」
ボソッと呟くも、その声に返事はない。
それでも彼女は立ったまま、もう一度デルコの名前を呼んでみた。
チャプチャプと下から水の音が聴こえ、薄暗い空は満天の星空で彩られている。
夜、船に乗ることなんて無い。
屋外の仕事ということもあり、はうきうきしているのだろう。
「一人は暇だー・・・早く上がってこないかなぁ」
空を見上げながらも、意識は湖の奥底に向いていた。
今朝、が居る湖の近くで銃殺事件が発生していた。
それでCSIが動き出し、今デルコとは湖に捨てられた銃を漁っているところ。
しかし彼女は1時間近く一人ぼっちで浮かんでいる。
ずっとデルコは湖の中に潜っているのだ、無理も無いが。
「それにしても、銃を湖に捨てるなんて馬鹿よねぇ犯人も」
湖面には小さな月が揺れている。
きっと昨夜も映っていて、この月も大きく揺れたのだろう。
銃が入るときに・・・そして、出るときも揺れる。
ゴポゴポ、と泡があがってきた。
大きく揺れた湖面から上がってきたデルコは、そのまま船の方にやってくる。
「あー上がってきた!」
もしゃがんで待ち受ける・・・彼が濡れた銃を持っていたため、袋を持って。
見ただけでは解らないが、恐らく22口径のものだろう。
「見つけたよ、」
デルコがバシャッと派手にあがってきたため、の服までびしょ濡れになったがそれは気にしない。
「カリーが喜ぶ顔が見えるわ」
手袋をして銃を持つと、ペイパックにしまった。
タオルを渡して、まじまじと銃を見る。
「でもさぁデルコ、これ弾がいっぱいだよ?」
「え、嘘だろ!?」
ほら、と見せてあげると、しょっぱい顔をしたデルコは 「違う銃だったかな」
と呟く。
少し考えたは、自分なりの見解を述べてみる。
きっと犯人は違う銃と見せかけるために、撃った後弾を込めたのだろう。
そこまで話すと、デルコはさすがと言いたげに感嘆した。
「って凄いな」
「へ?何が」
「見かけと違ってちゃんと科学者だ」
「それって褒めてんの?」
笑いながらダイビングスーツを拭くデルコを一瞥し、今度は湖に目をやった。
「・・・ねーデルコ」
「何?」
「湖って夜潜っても綺麗なの?」
・・・・・・返事が無い。
怪訝がって目を向けると、向こうもまた驚いた表情をしてを見ていた。
「、潜ってみたいの?」
「そうねぇ、綺麗だったら見てみたいかも」
もう一度、湖を見る。
月だけじゃなくて星まで鮮明に模写している・・・から見ると幻想的な世界なのだろう。
ジーッと湖を見るに、見かねたデルコが優しく言ってくれた。
「今度写真撮ってきてあげようか?」
「え、そんなことまで出来るの!?」
船の先端に手をつけたまま、顔だけで振り返る。
そんな彼女の目は湖の星を写したかのように輝いている。
・・・そこまで喜ぶとはな。
デルコも思わず笑ってしまうほどだったらしい。
「あっ、こら笑うな!」
「そりゃ無理な話だ」
「ちょっとデルコ!・・・ぅあっ!?」
体勢を直そうとしたはその瞬間、視界が一転した。
ズッ、と片手が水ですべり、そのまま体が湖に向かって落ちてしまった。
バシャンッ!大きく水が跳ね、短く響いた音が全てを物語った。
あまりにも咄嗟のことに、デルコは言葉を失うほど驚いてしまった。
「・・・っ!?」
急いで湖を見やると、バシャッと大きく跳ねた水からが見えた。
「泳げる!?」
「どうにか・・・、ちょっ、上げて・・・」
伸ばしたデルコの手を何とか掴み、上げてもらう。
「大丈夫?」
そうでもないらしく、ゲホゲホと大きく咳き込んでいる。
恐らく水を少し飲んでしまったのだろう。
デルコからタオルを受け取り、びしょびしょに濡れた服や髪を拭き始めた。
「近くで発見された死体と同じになるとこだった・・・」
「それは言い過ぎだって」
「いや、本当に死ぬかと思った!デルコはよく潜れるよね」
「ボンベあるしね」
苦笑するものの、安堵もしてるようだ。
本気で心配したのだろう・・・確かに急に湖に落ちられればさすがのデルコも驚くはずだ。
「ぅえー・・・水飲んじゃった」
「とりあえずCSIに戻る?」
「そうする」
数分後、動き出した船の上では呟いた。
「デルコ・・・湖の写真はもういいや」
「え、何で?あんなに喜んでたじゃない」
「だって怖いもん・・・湖」
一種のトラウマを持ってしまったは、再びデルコに笑われてしまった。
そういえば、との表情が少しだけ明るくなった。
「湖の中って何も聴こえないんだね」
「そりゃ水の中だからな。外の音は聴こえない」
デルコの声に頷き、一言呟く。
「あんなに呼んでたのに、やっぱ聴こえなかったか」
「いや、の声は聴こえてたよ」
「え?まさか!さっき全然聴こえないって言ってたじゃない」
冗談のように彼女は笑うが、本当に聴こえたことは知らなかった。
それほどデルコがを気に掛けてたのに、未だ気付いてないみたいだ。