Take a Rest
 何も無いことが、彼女にとっては事件である。



「チーフ!!」
 バンッと乱暴に開けたの声はホレイショのオフィスに響き渡った。
 椅子に座って書類を読んでいた本人は顔を上げ、「何だ?」と返す。
 明らかに血相が変わっているをみて、何かあったのかと検討はついているらしいが。

「ポケベルや携帯に何度も連絡したのに何で出ないんですか!?」
「内線だったら出たよ」
「うっ・・・」
 怯んだのも束の間、慌てた様子のはデスクまで近寄って来た道を指差した。

「じゃなくて!たた、大変です!!」
「どうした?」
「暇なんです、とてつもなく!!」


 その瞬間、ホレイショの表情は呆れ返ってしまった。
 血相も変えて何度も連絡を取ろうとした理由は “暇だから” 。
 彼が冷静沈着な人物でなければ椅子から転倒するリアクションを取るだろう。
 そして相手がでなければ一喝してオフィスから追い出すだろう。
 しかし彼の中では彼女が一番のお気に入りである。
 あまり酷いことをするのは気が引ける・・・ホレイショは深いため息を付いて訊いた。
「だから何だ?」
「・・・え、だから・・・なんだろ?」
 の中では “暇” が最大の問題なのだから、続きを訊かれても解らない。
 うーん、と考える間、ホレイショは再び書類に目を戻した。



 何だ・・・なんだろう?
 いや、別に私は暇だから此処に来たわけじゃないような?
 でも実際暇だったから来たんじゃないの?
 あれー?なんで来たんだっけ?思い出してみよう。
 確か、今日は一度もチーフを見ないなぁと思って、ラボに来ないということは事件が無いことだと解釈して。
 何か寂しいなぁと思って、それから事件無いのか電話したんだっけ。
 でも出ないから、ムキになったというか自棄になったというか、とにかく会わなくちゃって思ったの。

 だから・・・あ、そっか!


「解りました!」
「そうか、じゃあ言ってみろ」
 返事をするホレイショはなおも書類を読み続けていた。
 そっけない態度に顔をしかめたが、一応は続ける。
「暇だって事は、事件が無いって事でしょう?」
「あぁそうだ」
「一般的には良いことなんだけど、私には悪いことなんです」
「なぜ?」
「だってチーフに会う機会がグッと減るんですよ?」

 の優しい声を聴いたホレイショは、ゆっくり目線を上げた。
 見えた彼女はにっこり微笑んでいた。



「・・・やっと解ったか」
「えっ!?何ですかその言い振り!?」
 ホレイショはというと書類を置き、はというと驚いた表情になる。
 まぁ座れ、と言われたので座ってみたのだが、表情は次に困惑したものに変わった。
「チーフは私が来た理由が解ってたの?」
「そうだろうと思ってた」
「あんなに考えたのになぁ」
 やっぱりチーフは凄い!とでも言いたげなの眼差しに、ホレイショは優しく微笑んだ。

「遠回りに考えすぎだ」
「そうですか?」
は頭がいい。だが使いすぎると毒になる」

 はぁいと答えたが、褒められたのが嬉しかったらしく、は下を向いて微笑んだ。
「チーフに褒められたー」
 えへへと子供っぽく笑うをとても優しく見ているのが解る。
 ホレイショにとっては彼女も同じメンバー、妹のように可愛がっているのだろう。
 ・・・はたまた、別の感情があるのだろうか。



「なんかチーフって怖いのか優しいのか解らないですね」
 今まで怖い感情もあったのか、と意外に思ったホレイショは訊いてみる。
「いつ怖くした?」
「尋問中とかめちゃくちゃ怖いですよ」
「相手は被疑者だからな」

 がCSIに来たとき、カリーに 「あんまり怖いところばかり見せてたら怯えられるわよ?」 と言われた。
 彼女の前では優しくしてたつもりなんだが・・・と心の中で呟く。
 知ってか知らずか、はきちんとフォローも入れる。



「でも本当は凄く優しい人です」

 にっこり微笑んだ彼女を、ホレイショはどんな想いを抱いてみたのだろう。





 内線の音が鳴り響く。
 ホレイショが取り、相槌を打って切る。

「事件だ。もラボに戻れ」
「はーい」
 振りをつけて立ち上がり、ドアの方へ向かう。
 ホレイショも彼女の後を追って歩き出した。

「じゃーまたラボで会いましょう!」
「あぁ、血痕があれば持って行くよ」
「了解!」

 二人はそれぞれ反対方向へ歩き出した。



 ドアはカチャンと乾いた音を鳴らし、また二人は “何か” から“科学捜査官”に戻った。



■ author's comment...

 えー・・・なんか終わりが曖昧すぎる!!
 ホレイショさんの前だとが子供になる!!
 なんだかこの上下関係に憧れます。
 つーか恋愛対象というより “父娘” みたいだ。
 でも、あの、こう・・・解ってください!!(無理があるだろ)

 date.06---- Written by Lana Canna


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