Thanksgiving Day
「・・・はぁー・・・」
 の溜息が虚しく休憩室に響き渡った。
 テレビからはトランペットなどの管楽器が楽しそうに聴こえてくる。
 しかし場所が場所なだけにおめでたい気分にはなれそうもなかった。

「・・・はぁー・・・なんでテレビ見てんだろ」
 再び溜息が漏れる。
 しかしテレビを消せないのは、祭の映像だからだろう。





 大きな風船、沢山の演奏者、浮かれきった芸能人。・・・・・・全て、感謝祭の魔術とでも言うべきか。
 11月の第4木曜日、今日は年に一度の感謝祭。
 なのにはCSIのラボに篭りっきりだった。
 唯一、休憩室のテレビからは感謝祭っぽさが出ていただけで、ラボはいつもと変わりない。
 あと30分もすれば、再び仕事に取り掛からなくてはならない。

「感謝祭くらい家でゆっくりしたいものだわ」
 七面鳥やマッシュポテト、パンプキンパイ・・・あぁ、食べたい!
 がっかりと項垂れたの正面から声が聴こえた。

「食い意地張ってるな」
「へ?」
 心の中で言ったはずなんだけど?と意味した声を上げると、目の前に居たホレイショが笑いながら続けた。
「全部声に出てたよ」
「・・・チーフ!?」

 うわぁ恥ずかしい!
 思わず顔を赤らめてしまった。
 幸いなことにホレイショがテレビを見ていたため、気付かれなかったのだが。

「今日は感謝祭だったか」
「そうですよー・・・なのに仕事なんて酷すぎです」
 はぁー、と本日何回目かの溜息をついたが、ホレイショには効き目が無い。
「CSIの仕事は殺人と連動しているからな」
「じゃあ誰を恨めばいいんですか?」
「犯人じゃないか?」
 なるほど、確かにその通り。
 こんなおめでたい日に人を殺すなんて、最低よね。
 納得した様子のが頷く。

「それにしても、ニューヨークは毎年盛大なパーティをしてますよね」
「そうだな」

 さすが都会、セントラルパークのパレード中継が全米に流れている。
 二人が見るテレビでは今スヌーピーの巨大風船が飛んでいた。
 他にも、ミッキーマウスやビックバードなど様々なキャラクターが飛び交っている。
 観客も大勢テレビに映り、警察の人々が忙しなく動き回っている。

「いいなぁー・・・」
 思わず呟いてしまった。
 テレビから視線を外したホレイショは、不思議そうな声色で問いかけた。
「何がいいんだ?」
「皆楽しそうじゃないですか。・・・羨ましい」
「羨ましい」 のところで丁度テレビから大きな叫び声が聴こえた。
 思わずホレイショも視線を戻す。


『おーっと大変です!!今クッキーモンスターのバルーンが空高く飛び立っていきました!』
 テレビからは青いキャラクターが高い位置へと向かって飛び始めたところが見えた。
『どうやら繋いでいた紐が切れてしまったようです!あのバルーンは一体どうなるんでしょうか!!』


「大脱走が始まったぞ」
「うわ、凄い!」
 は思わず身体を乗り出してテレビに見入ってしまった。
 クッキーモンスターのバルーンは電柱をなぎ倒しながらビル達の間をすり抜けていき、公園へ。
 公園の上を通るとき、ホレイショがチャンネルを替えてみる。
 全てのチャンネルにクッキーモンスターが映っていた。

「前代未聞の事態らしいな」
「ですね!だって公園がバルーンの影で覆われてますもん!」
 クッキーモンスターの影がセントラルパークの大きな公園をすっぽりと隠してしまっていた。
 別にあまり関心が無いホレイショと違い、は 「すごい!」 と感嘆している。



 彼女はロンドンから渡米して結構長い。
 しかしマイアミ以外の都市を知らないにとって、ニューヨークのパレードは憧れの的だといえるのだろう。
 実際“来年こそ休みを取って、生でパレードを見たい!”という願望が彼女にはあるのだから。
 尤も、祭で浮かれた中には殺人する人も居るため、その願いは未だに叶っていない。

 彼女が毎年休憩室のテレビからパレードを観覧していることを、ホレイショは知っていた。
 だけど彼女を含め、此処は“CSI”なのだから仕方ないと思っている。
 私情を挟むのはよくないことだと、いつも見てみぬフリをしていたのだが―・・・



「うわ〜凄い!何処まで飛んでいくんでしょうね!・・・あっ!!」
 嬉々とした笑顔でテレビを見つめていたは、途端に驚いた表情を露にした。
「あー・・・」
「何だ?」
 射撃音が聴こえ、ホレイショも思わずテレビの方を向いた。
 どうやら撃ち落としたのだろう、クッキーモンスターが公園へ落ちていった。
 ナレーターの声や観客のどよめきがテレビを通じて休憩室に響き渡る。

 しばらく落胆の表情のままテレビを見ていたは突如立ち上がり、指を差してこう言った。
「チーフ、殺人です!!」
「・・・、殺人じゃないだろ」
「でもクッキーモンスターを撃ちました!!」
「いいから落ち着け。まずは座るんだ」

 肩を持たれ、座らされたは悲しそうな目をテレビに向けた。
 まぁ確かにあの結末は酷すぎるだろう・・・と、ホレイショは一応彼女の肩を持った意見を思っておくことにした。





「チーフ、ニューヨークにもCSIはあるんですか?」
 ふと、が口を開く。
 まだ “クッキーモンスター殺人事件” を考えていたのだろう、彼女らしいといえばそうだが。

「勿論だ」
「え!そうなんですか!?」
 大都市こそ科学捜査が必要な場所だろ。
 ホレイショは呆れてしまったが、口に出すと彼女が再び気落ちしそうなので止めておいた。
「ニューヨークのCSIはラボからパレードが見えたりするのかな」
 羨ましい、と小さく呟いたの独り言はホレイショの耳まできちんと届いていた。

 このままだとニューヨークで働きたいと言いかねないな・・・。
 はまだ子供っぽいところもあるが、メンバーの中では重要な役割を背負っている。
 抜けられたらホレイショを始めメンバー全員が困りかねない。

 今度はホレイショがため息を付いて、こう言った。
「来年は生で見れるさ」
「えっ?転勤ですか!?」
 驚いたというよりも悲しそうな顔を向けたは、なんだかんだ言ってマイアミが好きな様子。
 これなら転勤したいとは言わないな、と思ったホレイショは笑顔を向けて立ち上がった。

「楽しみは来年の感謝祭まで取っておいた方がいいぞ」
「えーっ!?なんですかーそれ!!」

 から抗議の嵐を受けるものの、ホレイショは 「我関せず」 といった笑みを浮かべて休憩室を後にした。
 相手が居なくなったためは抗議を止めたが、それでもわからない様子だった。
 まさか感謝祭の日に休日をもらえるなんてことは無いだろうと彼女の中できっぱりした否定があっただけに、
 来年は吃驚してホレイショに何度も確認することだろう。





「ニューヨークに転勤なのかなぁ・・・」
 羨ましいなんて思わなきゃ良かった!
 本気でそう思っているは、再度テレビに視線を移した。
 全米中が目撃したアクシデントはもう幕を閉じ、何事も無かったようにパレードの中継が流れている。

「・・・別に感謝祭でも仕事したっていいのに」

 仕事内容も含め、CSIがの中で憩いの場になっている今は全く苦に思っていないのだ。
 感謝祭のパレードも見てみたいのだが、仕事なら仕方ないと割り切れる心も持っている。
(ごちそうは本当に食べたがっているのだが)

 仕事に追われるのも悪くないんだけどなぁ、とうつ伏せたの耳に、再びホレイショの声が届いた。



「へ?」
 居なくなったはずじゃ・・・と起き上がってみると、彼はドアに寄り掛かっていた。
 さっきまでとは違い、“上司” の顔に戻っている。
「そろそろラボで感謝したらどうだ?」
「あぁっ!!そうだった!!」
 の休憩時間はとっくの昔に終わっていた。
 急いで起き上がると、ホレイショの前を素早く横切りラボへ向かって走っていった。

 残されたホレイショは、彼女が切り忘れていったテレビの方へと向かう。
 パレードは盛大なフィナーレを迎えていた。





「・・・今年くらい祝ってやるか」

 仕事が終わったら、に内緒でパーティでも開いてやろう。

 そう考えたホレイショはテレビの電源を切り、無音の休憩室を立ち去っていった。



■ author's comment...

 ちょっと感覚を忘れかけていました。大変だった・・・
 今回は感謝祭のお話でした・・・って、今の季節じゃないですけどね(苦笑)
 あ、バルーンのネタは某海外ドラマより拝借しました。判りますかね?
 なんだか話が思った以上にまとまらなかったです。
 はぁー・・・どんどん文才からかけ離れて行ってる気がします(涙)

 クッキーモンスターを撃ち殺してごめんなさい。
 私もこのキャラクターが好きだったんですが、他にキャラが居なかったんです!(言い訳)

 date.06---- Written by Lana Canna


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