Surprise Party
4月7日はホレイショの誕生日。
恋人のを始めとするメンバーはサプライズパーティを開くため、極秘で計画を進めていた。
レイアウト室に、カリーやデルコ、スピードルにが集まる。
上司であるホレイショは今雑務に追われているためオフィスに篭っていた。
その時間を利用して、彼女たちは計画を進めていた。
「じゃあ場所はの家ね」
カリーは手に持っているメモ帳に記しながら言った。
名前を呼ばれた彼女は頷く。
「うん、料理も私が作ろうか?適当に」
「マジで?の料理って美味いよな」
スピードルが表情には出さないが嬉しそうに言った。
その言葉には苦笑し、代わりにデルコが答えてやった。
「本当に大食家だよな」
「別にいいだろ」
ムッとして返すスピードルに、デルコは笑う。
「そんな喧嘩はよそでやってよね」
2人のやり取りを止めたカリーは、記しながら続けた。
「飾りつけは今日の仕事帰りにするってことでいいわね」
全員が頷く。
今度はが言った。
「誰を呼ぶ?」
「2日前だぞ。誰が呼べるんだ」
「CSI職員くらいなら呼べるんじゃない?」
「じゃあそれはカリーに任せるね」
カリーは笑顔で答えた。「解ったわ」
今度はスピードルだ。
「どうやってチーフを呼ぶよ?」
「そこはデルコとスピードルで考えてよ」
「え!?俺たちで!?」
「頑張ってね!」
女性陣に念を押され、思わず男性陣は顔を見合わせてしまった。
「じゃあ2日後は午後8時にの家でサプライズパーティよ!」
カリーの声に、他のメンバーが同意するように頷く。
そしてそれぞれレイアウト室を出て各ラボへ移動した。
はDNAラボへ向かう間、2日後のことを考えていた。
彼女にとってホレイショは上司でもあり恋人である存在・・・とても大切な人だ。
彼の誕生日には2人で祝いたいのも本音だが、サプライズパーティも楽しそう。
「チーフ、驚くかなぁ」
誰に言うでもなく呟き、小さく笑った。
前日の4月6日、カリー達はスピードルとデルコからホレイショを呼び出す方法を聞く。
「まず、CSI職員はの家に行かなきゃならない」
スピードルだ。誇ったように続けた。
「でも誰も居なかったら絶対チーフは不自然に思うだろ?」
「だから理由を作って外出してもらうんだ」
デルコが引き継いで言った ―― は不思議そうに首を傾げる。
「理由?何の理由よ」
カリーも同じことを思ってるのか、怪訝な面持ちをしている。
しかし男性陣2人は寧ろ笑顔になって答えた。
「簡単だよ、が食事に連れて行けばいいんだ」
「・・・は?」
当の本人である彼女はどういうことかわかっていないようだ。
一方のカリーはなんだとばかりに手を叩く。
「そうね、が囮になればいいのよ」
「へ?」
「その後チーフはを家に送るだろ?そこで君はこう言う、 “中に入ったら?”
」
「え?」
カリーにデルコ、スピードルは納得する ―― を残して。
「ちょっ、待って待って!私お店の予約も何もしてないよ!?」
「そこは大丈夫!俺たちでしておいたから」
「なんですって!?」
どうやら彼女に決定権は無いようだ。
一人呆然としてしまったは、もう一つ疑問をぶつけてみた。
「・・・じゃあ料理は誰が作るの?」
「「」」
「はぁあっ!?」
「大丈夫、出来るって」
デルコはの肩に手を置いて微笑んだ。
えっ? えっ!?
慌てた様子でカリーを見る ―― 助けを求めるつもりだったが、止めをさされた。
「大好きなチーフのためなんだもの、出来るわよ」
「・・・嘘でしょ?」
もはや味方は何処にも居ない。
決定したことには逆らえない ―― は観念したように頷いた。
同日、彼女は憂鬱そうにオフィスへ続く階段を上っていた。
下のDNAラボからはカリー達が覗いている ―― ニヤニヤしながらたちの動向を見ているのだろう。
ため息を吐きながらドアをノックする。
ホレイショの声が中から聴こえた。
「はい」
「チーフ、ちょっといいですか?」
室内に身体を滑り込ませると、優しい笑顔が見える。
「何だ?」
彼の笑顔に胸をときめいてしまう。
そして彼女は大好きなんだと実感する ―― いつものことだ。
「明日なんですけど、夕食を食べに行きませんか?」
早速本題に入ってみた。
案の定ホレイショは不思議そうな表情になった。
は心の中で祈る・・・お願いだから行くって言って!
祈っていた表情が真剣さを物語ったのか、ホレイショはやがて笑顔に戻った。
「そうだな、行こう」
「やったぁっ!!」
瞬間、輝いたような笑顔になった。
「じゃあ明日また来ますね!」
「・・・あぁ」
ホレイショの返事を聞いた途端オフィスを出て行く。
嵐のように去ったあと、ホレイショは不思議そうに首を傾げてしまった。
そして翌日、運命の4月7日。
は休憩時間中に帰宅しては急いで料理を作り、事前に合鍵をスピードルに渡した。
これで一応全ての準備が整った ―― 後はが上手く誘い込むだけだ。
「?」
ホレイショに呼ばれてハッと我に返る。
そうだ、レストランに来てたんだった!
彼女は咄嗟に笑顔を作った。
「何?」
「どうしたんだ、ボーっとして」
「い、いえいえ、なんでもないですよ」
怪訝そうな表情をしたホレイショに一生懸命微笑みかける。
とにかく怪しまれちゃ困るのだ。
こうなったらパーティの時に渡そうと思ってたけど、渡すしかない。
鞄の中から小さな小包を取り出すと、それをホレイショの前に置いた。
「・・・これは?」
「・・・誕生日おめでとうございます」
照れた笑みを見せる。
するとホレイショはきょとんとしたが、やがて目を見開いた。
「そうか、今日は俺の誕生日だった」
「え、忘れてたんですか!?」
「すっかり忘れてたよ」
ホレイショも照れた笑みを浮かべた。
なんだかんだ言って嬉しいのだ、は思わず可愛いなぁなんて思ってしまった。
「ね、開けてみて」
嬉しそうな笑顔で机に身を乗り出した。
ラッピングを丁寧に取った ―― 黒い小箱だ。正面に “BVLGARI” と書かれている。
ホレイショはゆっくり小箱を開けた。
箱の中にあったのは、腕時計だった。
時を刻む文字盤は黒く、シルバーのブレスがとても綺麗に輝いている。
文字盤の周りはシンプルな装飾になっていた。
驚いて言葉も出ないホレイショを見て、はとても満足そうだ。
「・・・高かったんじゃないのか?」
「チーフの誕生日ですもん。喜んでくれて嬉しいです」
満面の笑顔を見せる。
ホレイショはを見つめていたが、彼女の腕を取って引っ張った。
「えっ」
驚いた彼女に優しく口付けた。
唐突で目を見開いてしまったが、は受け入れるように閉じる。
離れるとホレイショは今までしていた時計を外し、彼女からのプレゼントを付けた。
笑顔でを見る ―― 腕を差し出した。
「似合うか?」
「はい!・・・かっこいいです」
柔らかく微笑むと、彼女の手に彼の手が重なった。
「愛してる」
「私も、愛してるわ」
料理が来るまでの間、2人は照れたように微笑み合った。
午後8時を回り、食事を終えた計画通りの家に着く。
「今日は楽しかった」
「私も・・・」
此処でハッとなる ―― そうだチーフを家の中に入れなくちゃ。
は満面の笑みでこう続けた。
「ね、家に寄って行きません?」
の笑顔に釣られてホレイショも笑顔になる。
しかし逆に質問をされた。
「何を計画している?」
「はへっ!?」
思わず声が裏返ってしまった。
目の前の彼は被疑者に見せるような不敵な笑みになっている。
「えぇっ!?何のことですか?!」
「数日前から変だと思ってたんだ」
「うっ・・・」
完璧にしくじってしまった。
は観念したように吐き始めた。
「・・・じ、実は・・・サプライズパーティを開いたんです」
「ほう」
「で、私の家が・・・場所なんです」
「そうか」
ホレイショは少し思案するように上を仰いだ。
その間は瞬時に3人に謝った。
ごめんカリー、デルコ、スピードル!ばれちゃったって言うかばらしちゃった・・・
だってチーフの目が怖かったんだもん!!
あぁこの調子じゃあ家に寄ってくれないよね・・・
「解った、行くよ」
「へっ!?」
全くお門違いな返事を貰って、は呆気に取られた表情を見せる。
ホレイショは変わらず不敵な笑みだ。
「せっかく開いてくれたんだ、行ってみるか」
「やったあっ!!」
急いで車から飛び出すを見てくっくっと笑いながらホレイショも車から降りる。
そして玄関の前に立つと、後ろを歩く彼の方を向いて念を押しておいた。
「チーフ、驚いたフリをしてくださいね」
「解ってる」
不敵な笑みが気になるものの、は心配ないだろうと思い直して鍵を開けた。
「」
「え?」
振り向いたはグイッと引っ張られ、ホレイショは彼女に唇を重ねた。
そして片手でドアを開く。
「「「サープラーイ・・・・・・・・・・ズ」」」
中に居た全員が2人を見た途端硬直した。
「・・・んぅっ・・・」
ドアが開いた途端、舌まで絡めるディープキスを見せ付けられたら誰だって固まるだろう。
視線に気付いたは驚き、慌ててホレイショを引き剥がす。
全員が固まったまま動かない ―― は思わずホレイショを睨んだ。
「チーフ、確信犯でしょ!!」
その言葉を聞いたホレイショは、微笑んで答えた。
「まさか誰かが居るなんて思わなかったんだ」
瞬時に硬直したを見て満足そうにしたホレイショは、先に中へ入った。
後にCSI職員も入っていったが、カリー達3人は彼女を見て一言。
「熱いキスだったわね」
「ホントだよ」
「見せ付けてくれちゃって」
3人のからかった言葉に、は恥ずかしそうに呟く破目になった。
「・・・さ、サプラーイズ・・・」