Eat Cherry
 は休憩室で一人テレビを観ていた。
 いつも彼女が出勤する時間より1時間早いが、彼女は承知しているようで、のんびりしている。
 手に持っているのはチェリーがどっさり入ってる籠。
 彼女はこの為に早く出勤してきたのだった。

「美味しい〜っ!」
 は満面の笑みをして思わず叫んだ。
 噛んだ途端甘く広がるチェリーをかみ締め、種を取り出して横に置いた小皿に入れる。
「甘ぁ〜い」
 ほくほくの笑顔をしてもう一個チェリーを口に入れる。
 更に甘酸っぱい香りが広がり、またしても笑顔になる。もはやテレビなど観ていない。
「さすが収穫したばかりのチェリー!美味しい・・・」
 更に幸せをかみ締めながらもう一個口に入れた。



 彼女はチェリーが届くのを数日前から心待ちにしていた。
 仕事中にちょっと息抜きをしてインターネットに繋ぎ、収穫したばかりのチェリーが通販していることを知った。
 そしてこっそり注文し ―家よりもCSIに居る方が多いため― 此処に届けさせていた。
 受付係の人から届いた知らせを受け、こうやって1時間早く出勤して堪能しているのだ。

「んー、もう最高だわ!」
 はチェリーにメロメロな様子。
 甘くとろけそうな味に、なんて幸せなんだろう ―― そう思っていた。
 しかしまだ籠いっぱいに入っていたため、暫く堪能できる。
「あーもう仕事したくない・・・」
 初めて本気でそう思ったに違いない。
「全部チェリー食べきるまでサボっちゃおうかな」
「それは好ましくないな」

 もう一個チェリーを頬張ったは、もう一人の声を聴いて瞬時に硬直した。
 ギシッ、と椅子が軋む音がした ―― 一番見つかったらヤバイ人物の気配だ。

「美味そうだな」
 ひょいっと籠のチェリーを一つ取る。
 はチェリーの行方を追うために隣を向いた ―― 案の定、ホレイショが口に入れていた。
「・・・お早うございます」
 まだ出勤時間じゃないのでは?
 小さな声で呟いたを、ホレイショは ―不適に― 微笑んで返す。
「それは君も一緒だろ」
 思わず口を噤む。
 その間にホレイショはもう一個チェリーを摘んだ。



「は、はい」
「さっき受付で興味深いことを訊いたんだが」
「・・・・はい?」
 完璧に声が裏返っていた。
 は今までと違ってとても気まずい表情をしている。
 彼女はこのチェリーを“仕事中に”注文した。
 更に“仕事中に”摘もうと思っていたのだ。 ―家よりCSI内に居る方が長いことも理由のうちだが―
 だから、上司であるホレイショに見つかると、非常にやばいのだ。
 冷や汗を流すの隣で、彼女の上司はもう一個摘んだ。
「美味いな、収穫したてか」
「あ、はは・・・」
「一体どうやって手に入れた?」

 苦笑いだった彼女の顔が再び凍りつく。
 そんなをホレイショは楽しそうに見ているみたいだ。

「・・・つ・・・つ、通販で」
 微かな声で啼いた彼女を、笑いながら見ている。
「通販?何時頼んだんだ?」
「・・・・・・し、仕事中に」
「そうか」
「ご、ごめんなさい!!」

 は立ち上がって頭を下げた。
 その拍子にチェリーが数個転げ落ちる。
 ホレイショは何も返さず、落ちたチェリーを拾った。


「別に怒ってないよ」
「ほんとに?」
「あぁ」


 信じられない、とは驚いた表情をする。
 彼女を残して一度席を立ち、一度チェリーを洗う。
 戻ってきたホレイショはあんぐりと開けていたの口に入れた。

「ん」
 暫くぶりの超絶な甘味に思わずの顔が綻ぶ。
「美味しい」
「そうだな」
 ホレイショも口に入れた。
 2人とも暫く黙って甘味に浸っていた。



「それにしても、何で怒らなかったんですか」
 もう一つチェリーを取って甘酸っぱい味覚に浸りながらが訊く。
 仕事に対してあれほど厳しいホレイショがこっそり注文したチェリーについて怒らなかった。
 それは驚くべきことだった。
 しかしホレイショは微笑む。
の笑顔を奪うことはしたくない」
「・・・チーフ」
 思わず感動してしまった。
 しかしホレイショの目は全く微笑んでいないことに気付いて表情を凍らせる ―― やっぱ怒ってるじゃない。

「・・・どうしたら許してくれます?」
 謝っても目が微笑まないホレイショ、今回ばかりは本気で怒っているのが解った。
 は観念したように訊いてみる。
 案の定、彼は氷のような冷えた声を出した。
「仕事をサボらなければ済んだんだ」
「ごめんなさいってばぁ!」

 もはや誰もチェリーに手をつけない。
 いや、彼女としてはもっと食べていたいのだが、こんな状況で食べても美味しくないだろう。
 籠を置いて、ホレイショの正面に向く。
「本当に反省してます」
「もう二度とないな?」
「絶対しません」
 というか、次にしたら恐ろしくてチーフの顔が見れません。
 そう呟いたはしょんぼりしていて、目に涙を溜めていた。
 怒られるのは好きじゃない。彼女の表情はそう語っていた。
 ホレイショは暫く黙ってを見ていたが、やがて微笑んだ ―― 柔らかい微笑だった。

「許してやるが、一つ条件がある」
「な、何ですか」
「チェリーをくれないか」

 は「え?」と聞き返してしまった。
 だって先ほどから訊く間もなくぱくぱくと口に入れていたのを知っているからだ。
 しかしホレイショは微笑んだまま、続けた。

「口移しで、だ」
「えぇっ!?」
「何だ出来ないのか」
 試すような口調だ。
 そこで初めては彼の魂胆が見えた気がした。
 怒った素振りを見せていただけで、本当はもう全然怒ってなかったのだ。
 ほぼからかい半分だったのだろう ―― 完璧にそう思った彼女は、とことん乗ってやることに決めた。
 と言うのも、彼女の考えが外れていたときのことも考えているからだったりするが。

「・・・いいですよ」
 籠から赤く熟れたチェリーを取り、へたを取って小皿に入れた。
 そして実を口に入れると、一層ホレイショに近づいた。
 彼女の両手がホレイショの首に回り、グイッと引っ張る。
 反動で口付けてやった。
 舌を使って彼女はチェリーを彼へ送る。
 ついでに熱く絡めてやった。彼女らしいイタズラだ。

 離れると、彼女ははにかむように下を向く。
 何だかんだ言って恥ずかしいのだろう。
 ホレイショは彼女から贈られたチェリーを食べながら不適な笑顔を見せた ―― 彼女の考えた通りだったのだ。

「・・・もう絶対仕事中に頼んだりしないもん」
「俺としてはもっと頼んでくれてもいいんだが」
「セクハラですよ、それ」



 微笑んで、ホレイショは籠の中からチェリーを取り出す。

 それを口に含み、もう一度彼女に口付けた。



■ author's comment...

 なんだこりゃあああああっ!!!甘い、甘すぎる・・・
 ってゆーかどういう話が書きたいのか決まらずにダラダラ書いたから意味不明になった・・・
 まぁサボってチェリーを頼んだにチーフが怒ったというか、からかった・・・みたいな?
 最終的には甘いなこの人たち。
 何か書きながら照れちゃった神南です。
 タイトルとかみ合わないような気がしたけど、あえて直さないことに。
 だってチーフ夢でEから始まったタイトルは初めてですから(笑)

 date.06---- Written by Lana Canna


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