I Love ALL
ねぇ言ってもいい?
あなたの全てが、だぁいすき。
オフィスに帰ってきたホレイショは驚いて目を見開いた。
まさか誰かが居るなんて思っても見なかったことだからだ。
しかし現実は想定外のことも起こる。―― なぜか知らないが人生の皮肉すら感じてしまう。
「あーっ、チーフだぁっ!!」
いつもより数倍テンションが高いが、あろう事かいつもホレイショが座るデスクに着いている。
くるくると、まるで職場につれてこられた子供のように椅子を回して遊んでいる。
「・・・?」
「はぁーい?」
きゃははは〜と、自分の遊びに夢中になっている。
・・・何年前のを見ただろう、と思わず不安になってしまった。
過去に繋がるドアを開けたのか?いやありえない、と瞬時に自問自答してしまう。
しかし彼女に近づくと理由はすぐに判明した。
呆れた表情になって、冷静に言う。
「・・・」
「何ー?」
「酔ってるな」
「はーい!」
元気のいい返事に思わずホレイショもため息しか出ないようだ。
前々から知っていた。
彼女が酔うと今まで以上にテンションが上がり、好奇心も旺盛になる。
・・・要は、子供になる。
一度飲ませてから彼女が凄く酒に弱いことが解り、飲まさないよう心がけてきたのだ。
しかし、酔っ払いと化しているがここに居る。
・・・誰だ、飲ませたのは。
「スピードル!」
「そうか、スピードルか」
はぁ、と再びため息をつく。
スピードルには後できつく言っておこうと考えたのだろう。
とりあえずこの酔っ払いをどうにかしなくてはならない。
「もう飽きたー」
数倍明るいは、椅子から立ち上がる。
しかし酔っている上にグルグル回ったため、まっすぐ歩けるはずもなく、コードに躓いて盛大に転ぶ始末だ。
ぎょっとしたが、近くに寄ると笑い声が聴こえる。
怪我は無いようだ ―― 寧ろ転んだことすら笑いに替えている。
ホレイショは笑い上戸となっているを抱き上げ、ソファに寝かせてやった。
きゃははと高い笑い声が響く。
どうしたもんかと思わず頭を抑えてしまった。
こう見ると、いつものがとても大人っぽいことがわかる。
確かに良く笑い、軽い悪戯も好きなのだが・・・酔うと度を越えてしまう。
しかし昔の彼女はこうだったのかとも思い、可愛らしくも思える。
惚れた弱みと言うものか、痘痕も笑窪と言うものか ―― ホレイショは仕方なく笑った。
彼女はいつの間にか笑い声を止め、きょとんとしていた。
目はとろんとしていて、頬が少し赤い。
酔っているからだと解っていても、堪らずそっと口付ける。
触れるだけのキスのあと、もう一度深いキスをし合った。
は酔うと積極的になることも解った。
自分から舌を入れてくるなんて事は、いつものだったらしない。
声が漏れるほどのキスを何度か繰り返し、離れると彼女の頬はより一層赤く染まっていた。
微笑みかけてやると、彼女も優しい笑顔を向けてくれた。
いつもより明るい声が響く。
「チーフ、大好きよ」
ホレイショの手を握る。
「この手も、この身体も」
抱きついてもう一度キスをした。
「唇も、キスも」
可愛らしく微笑んだ ―― 酔ってても変わらない、いつも見せてくれる笑顔だ。
「全部、ぜーんぶ、だぁいすき」
ホレイショは優しい笑みのまま聞いていたが、ふとの手を取ってキスを落とした。
「この手も、身体も」
手を彼女の後ろに回し、今度は頬にキスを落とす。
「笑顔も、声も」
強く抱き締めて、かみ締めるように囁いた。
「・・・全てを、愛してる」
酔っていたは、いつの間にかホレイショの腕の中で眠り込んでしまっていた。
それでも彼は彼女を強く抱き締め続けた。
彼女が酔って無くても、同じ言葉をくれることくらいホレイショには解っていた。
だからこそ嬉しかった ―― そして、離さない事を心の中で誓った。
このとき、は2人が神の前で誓う姿を夢で見ていたのかもしれない。
現実になるのは、もう少し先の話 ――― ・・・