Sunglasses
 は滅多にサングラスを掛けない。
 打って変わって、上司はいつも何処かに掛けている。
 室内でも掛けている彼を、は不思議そうに見るのは珍しいことじゃなかった。





 証言が終わり、は法廷を出る。
 今日は裁判の証言があるため、休暇を貰っている。
 このまま家に帰ろうかと思った彼女は、ふと待合室に見知った姿を見つけた。
 彼女独特の能天気な声が響く。

「あれ?チーフだー」
 彼女の声に気付いたホレイショは顔を上げた。
 綺麗な青の瞳は、サングラスによって見えない。
 しかし笑顔を向けてくれたことは彼女に伝わった。
、終わったのか」
「終わりました・・・けど、何で居るんですか?」
「迎えに来たんだ」
「・・・へ?」
 ホレイショはサングラスをしたまま意地が悪そうな笑顔を浮かべている。
 一方の方はきょとんとしたが、やがて顔を歪めて言った。
「つまり、CSIで仕事をしろと?」
「そう言うことだ。行くぞ」
「えぇっ!?ちょっ、待って!」
 踵を返し、ホレイショは靴音を立てて歩き始める。
 唖然としていたが、彼女は慌てて隣に並んだ。


 ロビーへ向かう途中、はチラッと斜め上を見る。
 愛用しているサングラスが鈍く光っている ―― そういえば、いつも掛けているような気がする。
 マイアミは日差しが強い。
 現場に向かう捜査官の必需品とも言えるサングラスだが、はよほどの時以外掛けることはなかった。
 暗くてよく見えないというのも一つの理由だが、何だか好まない。
 それなのに隣に歩く上司はよく掛けている。
 外だけじゃなく、屋内でも掛けているのを何度も見ていた。
 激しい時はCSI内でも掛けていたような気がする。
 考えられない ―― 何故いつも掛けているのだろう。

・・・
 グイッと腕を引っ張られた。
 その拍子にハッと我に返る ―― 隣を見ると、不思議そうな表情のホレイショが居た。
 どうやら右折する場所をまっすぐ歩いてしまっていたのだ。
 探るように、斜めに顔を傾けた。
「何を考えてる?」
 表情を表すための“目”が隠れていて、何を思っているのか良く解らない。
 なんて答えを出せばいいか解らなかったは、とりあえずはぐらかすことにした。
「気にしないでください」
 ホレイショは、思案するように暗いレンズの中に映るを暫く見つめた。
 歩きながら彼女も見る。
 何を考えているのだろう ―― には解らなかった。


 人間の感情と言うのは顔に出る。
 いや、殆どは目に表れるのだった。
 微笑んでいても目が笑っていなければそれは笑顔とは呼ばない。
“目” というのは素直に感情が出る唯一の場所だと彼女は考えている。

 サングラスと言うものは日差しから目を守るだけではなく、感情も隠すためのものでもあるのかな。
 うーん、解らない。
 腕を組んで首をかしげながら歩く彼女を、ホレイショは不思議そうに見ていた。





 やがて2人はそれぞれの想いを胸に、裁判所を出る。
 出た途端見えたのはSUV ―― 科学捜査班と書かれている。
 玄関前に堂々と停められるのはホレイショ以外いないだろう。
「チーフ、せめて駐車場まで入れましょうよ」
「何、すぐ退けるさ」
 ホレイショは回り込んで運転席に乗り込む。
 呆れてしまっていたも後に続いて助手席に乗った。

 彼女はSUVに乗るのが好きだった。
 大型車らしく車内は広々としているからと言う理由もあるが、何よりホレイショが運転するからだ。
 第一線に立つ彼を見ているのが好きだった。
 隣を向くと、ホレイショが真剣に前を見つめてハンドルを切る姿が目に映る。
 彼の真剣な瞳が大好きなのだが ―― またしてもサングラスに邪魔されてしまった。
 思わずため息を付いてしまったが、尚も見つめる。

 そのうち、信号で車が停まった。
 視線に気付いていたホレイショが彼女の方を向く。
「何だ」
「え?」
「熱い視線で見てただろ」
「なっ!」
 思わずドアにぶつかってしまった。
 しかし、見ていたのは事実だから否定できない。

 少しの間、2人の視線が絡まっていた。
 ふとの手が伸びる ―― ホレイショのサングラスを取った。

「チーフ」
「どうした?」
「感情を読まれるのが嫌なんですか?」

 純粋な目を向けた彼女の言葉に、一瞬言葉を失う。
 彼女の視線は何でも見透かす力を持っているようだ。
 驚いた表情をしていたホレイショは、やがて笑顔になる。


「君には敵わないな」


 長い間サングラスに隠されていた分、彼の笑顔はの胸を高鳴らせてしまった。
 恥らう笑顔を見せて、手に持っていたサングラスを掛ける。

 暗いレンズの中で、彼女はもう一度ホレイショの方を見た。
 もう信号は変わっていて、再び彼は前を見つめている。
 その瞳は綺麗な青色をしていて、が好きだった真剣な表情を見せている。





 CSIに着くまでの間、彼女はホレイショのサングラスを目に当て続けていた。

 隠されたのは、秘密の感情。



■ author's comment...

 何だかじれったいなぁもう(笑)
 サングラスについてはいつも思ってました。
 よく、事件が解決して、被害者たちで一つのドラマを終えたときに掛けますよね。
 最後に掛けて歩く ―― そんなシーンが心の中に残ってます。
 あの時何を思ってるんだろう・・・そう思ってました。
 きっと、何かを思案してるけど周りに悟られたくないのかな。
 そんな考えから出来たお話です。

 ・・・ちなみに、愛用してるサングラスの値段は“$18.00”だそうです。
 もうちょっと高いの買ってもいいんじゃないかなぁ(笑)

 date.06---- Written by Lana Canna


← back to index
template : A Moveable Feast