In Analysis
AVラボには二人の影。
仕事中のスピードルに、することが無いのかが引っ付いている。
彼はどうやら困ってるみたいだけど。
「・・・」
「んー?」
クッキーを左手に持ち、右手では膝の上の雑誌をめくっている。
どう考えても空返事のようなの声は、スピードルを相手にしていないように思える。
「・・・何やってんの?」
「もうちょっとで雑誌読み終わるの」
「そうじゃなくて」
スピードルはに気が散って映像を解析できないでいるようだ。
しかしはマイペースにクッキーを口に運び、雑誌を閉じる。
「終わった?」
「うん」
「じゃーラボに帰ったら?」
「嫌」
雑誌を他の椅子に乗せ、クッキーをもう一口食べる。
彼女ののん気さには天晴れだが、スピードルは迷惑そう。
「なに解析してるの?」
ラボに帰る気は無いらしく、目の前に移るモザイクの映像に興味を示した。
スピードルは、はぁー、と深くため息を付いて映像を見る。
もう諦めたようだ。
「昨日の事件。チーフに頼まれたんだ」
「へぇー」
スピードルにクッキーを見せると、彼は遠慮なく一枚取る。
二人してまるで休憩中にテレビを見ているかのように映像を見ながらクッキーをほおばっている。
しかしこれも仕事のうち。
モザイクばかりで何が映っているのかわからなかったが、徐々に鮮明になっていった。
「・・・あ」
「あ?」
鮮明に映った男の顔を見て、スピードルは誰か検討が付いたようだ。
しかし現場に赴いていないにはわからない。
「誰?」
「目撃者。防犯カメラに血まみれで映ってるけどね」
「じゃー救命したとか?」
「だったらこんな飛び散るような血痕が付かないでしょ」
指した所には掠れたような血の痕が付いている。
目撃者、今は被疑者が着ている白いシャツには目立って付いている。
「んー・・・この人が殺したのかなぁ」
もぐもぐとクッキーを食べながらも、頭はフル回転しているようだ。
の胸元にぽろぽろとクッキーがこぼれる。
「」
「ん?」
「食べるか考えるかどっちかにしてくんない?チーフに怒られるの俺だし」
「あ、ごめん」
床にまでクッキーがこぼれている。
さすがにヤバイと思ったのか、は少し拾って空になった袋の中に入れた。
「あちゃー食べ終わっちゃった」
「じゃー帰れ」
「いーや!」
はゴミ箱にクッキーの袋を入れ、椅子を寄せてスピードルにくっついた。
「だって居心地いいんだもん、此処」
「そうか?目が疲れる」
今の感想を言ったのか、スピードルは目を擦っている。
“目が疲れる” かぁ、確かにそうかもしれない。
の目に映像を映しながら、そう考えた。
「・・・うーん、なんだろ」
「何?」
「スピードルの近くだからかな、居心地がいいの」
隣から何も反応が無いが、は想定内だった。
スピードルは口数が少ない。
だから居心地がいいのかもしれない。
「・・・じゃ、付き合う?」
「は?」
隣を見ると、真剣な表情のスピードルが近くに感じた。
本気で言ってるのかな、この人。
なんて思ったけど、には答えくらいわかっていた。
ふと映像に目を戻すと、何か違和感があったのかはもっと目を寄せた。
・・・あれ、映らないはずのものが映ってる気がする。
「スピードル、ここ拡大してみて」
「あぁ」
カタカタッとキーボードに手を滑らせ、マウスを操作して拡大する。
そこは大きなガラスがある・・・窓だろう。
「ここもっと鮮明になる?」
「なるけど・・・何?」
「いいからやって」
綺麗な絵になると、そこには死体が映っていた。
どうやら反射して防犯カメラに映っていたのだろう、ナイフが刺さってうつ伏せに倒れている。
「この人は主犯者じゃないよ!」
「どうしてさ?」
「だって刺したときに散った血痕にしては一箇所に集まりすぎだよ。この血痕はおそらく犯人が服を掴んだはず」
「・・・そうか!」
防犯カメラに映っていた男は本当に “目撃者” だったのだ。
おそらく別に共犯者が居て、後ろから指された被害者が服を掴んでしまったのだろう。
この目撃者をホレイショが尋問すればすぐに吐くだろう。
「さすがだな、気付かなかった」
「でしょー!」
褒められるのが一番気持ちいい。
開き直りつつも照れ笑いを浮かべるに、スピードルはもう一度問う。
「で、どうすんの」
「何が?」
「付き合う?って言ってんの、俺は」
「・・・いーや」
今までどおり、否定の返事をしてやる。
案の定スピードルは傷ついた様子も無く 「そう」 と呟いた。
「本気で思ったら付き合ってくれる?」
「もちろん」
「じゃー男作らないでよ」
解析した映像をプリントしながら呟いたスピードルの言葉は私の耳には届かなかった。
「もうちょい先だからさ」