Unexpected
、分析頼む」
 ラボに入ってくるなり仕事を押し付けてきたスピードルを睨み、再び顕微鏡を覗くのは
 明らかに疲れ果てているようで、いつものマイペースな笑みは見えない。
 そんなに少し吃驚したスピードルは思わず訊いてみた。

「どしたの?」
「どうしたもこうしたも、血痕の分析とDNA鑑定で追われているのよ。全く、何でこんなに事件ばかり起きるの!?」
「俺に言われてもなぁ。ホシ本人に言ってみたら?」
「犯罪を犯した後に聞いても意味ないじゃない」

 確かに、とスピードルも頷く。
 犯人が居るということは、事件が既に起きているということなのだから、答えにならないだろう。

「マイアミって物騒なところよねぇ」
「大して何処も変わらないだろ」
 スピードルからサンプルを受け取ったは、何か思い出したように話し始める。
「物騒といえば、ラスベガスでは飛行機の上で殺人事件があったんだって」
「飛行機の上で?そりゃ凄いな」
「でしょ?こっちでも飛行機関連の事件があったけど、まさか高度3万フィートの高さで事件だなんてね」

 話しながらもサンプルの一部を切り、いろいろな機械を使って分析を開始している。
「で、結局誰が犯人?乗客だよな」と話を聞きたそうなスピードルは、結果が出るまでラボに居る気だろう。
 面白いほど食いついてるなぁなんて思いながら、は続きを話してやった。

「なんかね、飛行機の中で男の人が急死したんだって。えーと・・・病気のせいだっけ?
 とにかく暴れだしたらしいの。そのとき乗客者全員で押さえこんでそのまま放置してたんだって。
“変人だ” って思ったみたい。すぐ救命処置を施してたら助かってた命なのに、全員で放置して隠してたらしいよ」
 少し前に聞いた話だから、あまり覚えていない。
 それでも彼女なりに説明すると、スピードルは納得したように 「あー」 と呟いた。
「乗客者全員が共犯者か・・・ベガスではそんな事件があるんだ」
「うん、お姉ちゃんが教えてくれたんだよ」

 は顕微鏡と睨めっこしながら話していたが、機械から調べ終わった声がかかってそっちに目を向けた。
 そんな彼女をスピードルはただ見ている。

「そういやの姉って同じ職業なんだっけ」
 彼女は頷き、初めて顕微鏡からスピードルのほうを向いた。
「そう、ベガスのCSIに所属してるの」
 姉の話をする彼女の表情は、尊敬するような笑顔を見せる。
 心の底から慕っているのだろう、姉のことを笑顔以外の表情で話す姿はスピードルも見たことが無いくらいだった。

「・・・やっぱりに似てるの?」
「へ?」

 スピードルとの会話に集中してしまっていたのか、ガシャンッ!とプレパラートを落としてしまった。

「・・・あ」
「またやったか」
 はぁー、とため息を付くスピードルを見やったが、はしゅんとしてすぐちりとりを取りに行った。
「今月に入って4枚目だよな、スライドガラスを割るの」
 しかも今回はカバーガラス付きで割るとは。
 スピードルはため息しか出ないようだ。

 は科学者としての知識は溢れているのだが、集中力が途切れやすくたまに失敗をする。
 彼女がCSIで働くようになってから、スライドガラスを始めとするガラス機器が粉砕する数が一段と増えた。
 それでも皆に慕われているのは彼女の性格故か、性能故か・・・。
 しかしすぐ飛んでしまう集中力のせいであまり現場の捜査をさせてくれないらしく、治そうとはしているらしい。
 ・・・果たして、いつ治るのか。

「スピードル、チーフには黙っててよ」
「いや報告する。スライドガラスがこれ以上減ると不便だからな」
「・・・うー・・・」

 明らかにしょんぼりしたは、ちりとりを見つめて泣きそうな声を発す。
「いつになったら君とサヨナラ出来るんだろう」
「当分無理なことは確かだな。ほら、貸して」

 このままにガラスの片付けをさせると、お得意の注意力散漫で怪我まで負ってしまいそうだ。
 おとなしくスピードルにちりとりと箒を渡し、側で傍観することにした。

「で、なんて言ったの?さっき」
「あぁ、 “やっぱりに似てるの?” って」
「・・・何が?」
「コレ」
 プレパラートのガラスを拾い上げたちりとりを高く上げて見せる。
 は怪訝な面持ちでちりとりの上を見て、ようやく解ったようにポンと手を叩く。
「あぁそれね。・・・って、あんた馬鹿にしてんの!?」
「そうじゃない。 “DNAはどこまで似せることが出来るのか” 知りたいだけさ」
「嘘ばっかり!」

 スピードルがガラスを捨てに行っている間、分析に戻ったは少し昔を振り返ってみた。

 ・・・うーん、そういえば。
 分析結果がプリントアウトをしている間、戻ってきたスピードルに、言いづらそうに教えた。
「そういえば、お姉ちゃんと似てるかも」
「へぇー、やっぱり」
「でも仕事中は別人のような集中力を持ってるなぁ」

 何枚も結果がプリントされて出てきている。
 その音を聴きながらも、スピードルは疑問をぶつけてみた。

「・・・なんで集中力無いわけ?」
「そんな事聞かれてもわかんないわよ」

 ピーッと分析終了の音が鳴り響く。
 全ての紙を持って、は一つの言葉と一緒に渡す。
「無いものを持ってるから、私はお姉ちゃんを誇りに思ってるの」
 黙って受け取ったスピードルは、少しだけ感心した表情をした。

「そうなんだ。なんか意外だな」
「うん・・・って、今まで私のことどう思ってたのよ」
 キッと睨んだに怯むこともないスピードルはサラッと言ってのける。
「幼いヤツだって思ってた」
「お、幼い・・・!?」
「うん」

 幼い・・・もう20歳超えてるのに、幼いなんて思われてたわけ?
 怒るよりも少しショックを覚え、反論できないの代わりにスピードルが続ける。

「でも惚れた」
「・・・へっ!?何っ!?」
 さらりと聞き流したつもりでも、コレは反応しないわけにはいかない。
 思いっきり驚いたは危うく小瓶まで落としそうになった。
 まぁそれはスピードルが手を貸したから堕ちることは無かっただけなのだが。

 はあっという間に頬が赤くなる。
 しかしスピードルはしれっとした表情を崩さない。

「ちょっ、スピードル!?何言ってんの!」
「だから惚れ 「ぅわぁもう言わなくていいって!!」

 自分の言葉を遮られたからか、少し驚いたみたいだ。
 しかしすぐ微笑んで言った。
「まぁそのつもりでいてよ」
「えっ!?」
 それだけ言ったかと思うと、分析結果を読みながらラボを出て行ってしまった。
 ただ一人残されたは頬を染めながらも混乱していたようだ。

「え、あれ何なの!?怖いよ逆に・・・」

 なんて言ってるけど、頬はまだ真っ赤なまま。
 残されたラボには彼の気配すらないのだが、どうやら当分この赤みは取れないらしい。

「・・・・・・・・・」

 ただ無言で先ほどの出来事を思い出していた彼女は、再び顕微鏡を覗き始めた。
 それでもグルグル回るさっきの言葉に頬を何度も染め上げ、全く集中が出来やしない。



「・・・もう、何なのよ一体・・・」

 うつ伏せて微笑んだのは、彼女だけの秘密。



■ author's comment...

 えーっと・・・色んな方向に話が行ってしまいました。
 言いたかったことは一つ、「ヒロインはどんなにドジでも、根はちゃんと大人なんです」!
 ・・・本当にコレが言いたかったのかは定かでは無いんですが。
 最近はチーフよりスピードルに熱を上げてたり。
 あ、ちなみにベガスの「高度3万フィート〜」の話も少しだけ混ぜてみたり。
 最近見てなかったので少し忘れてました(涙)
 ベガス版が本格的に始動したら、合同捜査させたいですね!

 date.06---- Written by Lana Canna


← back to index
template : A Moveable Feast