Engagement?
 この日、ホレイショ率いるCSIメンバーたちは多忙に追われていた。
 残忍な殺戮が行われた事件は少なくとも被害者が14名、重傷者が30名以上出ていた。
 そのため休暇を取っていた者も急遽出勤することになったのだ。
 ホレイショから連絡を受けたも休暇返上して働くことになったのだった。
 勿論その日の予定は全てキャンセルして・・・。



 バタバタと慌しく人が流れていく廊下を歩くは、酷くがっかりしていた。
 彼女の服装は黒のお洒落なドレス、肩より少し長い髪は珍しく巻かれている。
 明らかに予定が入っていた格好だ。
 しかし文句も言えない。
 上司の命令であれば是が非でも聞かなくてはならないのだ。

「よぉ・・・うわ」
 丁度すれ違ったスピードルは彼女の格好を見て驚き、立ち止まって振り返ってしまった。
「どしたの?その格好」
「チーフに呼び出されたの」
 答えたから明るさは消えていて、すっかり声のトーンが低かった。
「そりゃ災難だったな」
 スピードルの返答に、は苦笑しながら再び歩き出す。
 左手には小さなバッグと94本の綿棒が入っている袋を、右手には上皮組織のサンプルと被害者に刺さっていたガラス片を持っている。
 ホレイショから渡されたもので、これから全て分析しないとならないのだ。
 スピードルはそのままの隣に並んで歩き出した。
「・・・向こうに用があったんじゃないの?」
「いや、話を聞こうと思ってね」
「チーフに怒られるんだから」
 そう言ってやると、スピードルは少し黙ったかと思ったら携帯を取り出した。
 どうやらホレイショに電話を掛けたようだ。
 調べたことを報告し、の手伝いをすると言って電話を切った。
「チーフが手伝ってもらえって」
「・・・・・・じゃーお願い」
 右手に持っていたものを渡し、は通り過ぎる仕事仲間の視線を感じながらもラボへ向かった。



 黒のドレスには似合わない白衣を羽織り、所定の位置に着く。
 綿棒を取り出していると、スピードルが隣の机に着いた。
「で、今日は何の予定があったわけ?」
「パーティーよ」
 綿棒を “DNA用” と “分析用” に素早く分けながら続ける。
「友達のバチェラー・パーティー」
「へぇ、結婚するんだ」
 頷いたはスピードルのほうを向き、本日初の笑顔を見せる。
「私ね、付き添い役するの」
「そうなの?裾を踏んで転ぶなよ」
「・・・気をつける」
、それ分析用」
「へ!?」
 余所見をしながら分けていたため、途中からめちゃくちゃになっていた。
 慌てて直す彼女を、この調子だと本番で転びそうだな・・・とスピードルは呆れながら見てしまった。

 全てを分け終え、は “DNA用” に手を付けた。
 やり慣れた作業なため、スムーズに調べ始める。
 隣でスピードルは “分析用” の綿棒を分析し始めた。
「それにしてもさ、も結婚出来る歳なんだよな」
 スピードルは視線を顕微鏡に合わせながらもそう言った。
 答えるも目は同じく顕微鏡を向いている。
「そうよ、お子様じゃないんだから。・・・でもこの仕事に就いてると、結婚は愚か恋人も作りづらいのよね」
「そーかぁ?」
「スピードルは別かもね。だって前日と同じ服で出勤したりするし」
「でも今は居ないよ」
「へーえ?それは珍しい」
 茶化すように言うと、スピードルは視線をに移した。
 視線に気付いた彼女はそっちを向く。

「なぁ
「何?」
「俺そんなプレイボーイに見える?」
「うん」
「・・・・・・嘘でしょ?」

 表情には出さなかったけど、スピードルは内心では少し傷ついていた。
 デルコのほうがよっぽどプレイボーイなのだが、にそう思われていたとは思ってもいなかった事態だ。
、俺そんなに “とっかえひっかえ” してないからな」
「え、そうなの?」
「プレイボーイはデルコなの。わかった?」
「へぇーそうなんだ」
 初耳とばかりに意外な表情を作ったは再び顕微鏡に目を移した。
 ・・・こいつ、デルコをどんなイメージで見てたんだ?
 同じことをカリーに言えば 「そんな事知ってたわよ」 と即答するだろうな、と思いながら彼も視線を戻した。

「ねぇスピードル」
「何?」
 さっきと同じく二人とも視線を顕微鏡に向けたまま会話を始めた。
 しかし、彼女の声は少し躊躇いがちだった。
「・・・私たちって結婚出来るのかなぁ」
「は?」
 明らかにスピードルの声は「何言ってんの?」と聴こえる。
「だからね、こういう仕事に就いてても結婚って出来るものなのかなぁと思って」
「あーそういうこと。が結婚したいのかと思った」
「そりゃしたいよ。女性の夢じゃない!」
 またしても視線をスピードルに向ける。
 熱弁するあたり、彼女は結婚願望があるようだ。

 視線を合わせ、ちょっとだけ意地悪を言ってやった。

「無理かもな」
「えっ゛!!」
 案の定、信じやすいは今日始めて会った時のがっかりした表情になってしまった。
 悲しそうに綿棒をスライドガラスに擦りつけ、再び顕微鏡を覗いた。
 そんな様子を見ていたスピードルの脳裏にあることが閃いた。

、賭けをしないか?」
「賭け?」
 再度スピードルを見やる。
があと5年経っても結婚出来なかったら、俺と結婚する」
「・・・ちょっと、私5年後も結婚できないっての?」
「例えばの話」
 そりゃ例えばだけど、なんか虚しいじゃない。
 心の中では呟いたが、言葉には出さなかった。
「で、何で結婚できなかったらスピードルと結婚しなくちゃならないの?」
「賭けだからに決まってんじゃん」
 私にメリットないじゃない・・・と思っただが、まぁいっかと考えた。
 どうせ5年の間に結婚出来るでしょ、と高をくくって答えた。
「いーよ。もし5年経っても結婚してなかったらスピードルと結婚してあげる」
「成立だな」

 ニッと笑って、スピードルは突如鳴り響いた携帯を取り出した。
 ホレイショからだろう、何か仕事を頼まれて二つ返事を返していた。

「チーフから呼び出し?」
「あぁ。約束覚えとけよ」
「わかってるってば」

 ラボを出ようとしたスピードルは、ふと立ち止まって振り返った。
 不思議そうに彼を見るを見返し、一言だけ呟く。

「それ、似合ってんじゃん」
「え?」
 不本意にもドキッと胸が鳴った。


 スピードルが立ち去った後もドアの方を見つめていると、やがてホレイショが通りかかった。
、分析進んでるか?」
「・・・・・・」
?」
「・・・えっ!?あ、はい進んでます!」
 不思議そうに見ているホレイショに気付いたは、すぐさま顕微鏡に目を向けた。

 なんでスピードルにドキッとしちゃうんだろ?
 顕微鏡を見ながら、つい首を傾げるであった。

 二人の賭けの結果は5年後のお楽しみ。



■ author's comment...

 休暇返上で働くとスピードルのお話でした。
 いや〜なんか無心で書いてたら「賭け」なんてしてくれましたよ。
 ・・・つーか5年後どうなるんだ!!(ぇ)
 気になるところですね。
 でもまぁこのお話はこれで終わりです。・・・くっつくんじゃないですか?(適当)
 休暇も返上しちゃうなんてなんて大変な仕事なんでしょう。
 やっぱパーティーとかで正装したまま出勤する人もいるんですかね?
 ハロウィンとか賑やかな職場になるんだろうなー(笑)
 ・・・これって婚約になるのかな??

 date.06---- Written by Lana Canna


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