Four-leaf Clover
小さな小さな恋心。
少し気付いただけで、芽吹いたばかりの恋心。
“富” も “名声” も “素晴らしい健康” もいらないから、ねえ。
満ち足りた愛を下さい。
「スピードル見て見て!!」
朝一番で会ったの手には、四つ葉のクローバーが握られていた。
それを見せられたスピードルは何の反応も見せず唯一言。
「・・・お早う」
「お早うじゃなくて、これ見てよ!」
「見てるよ」
「なんか感想くらい言いなさいよね」
ギロッと睨み、再び笑顔でクローバーを見ている。
とても嬉しそうにクローバーを見つめるを、スピードルは意味も無くじっと見つめていた。
「、まさか探したとか?」
「そうよ」
「マジ?子供だなー」
「また言ったわね!?」
何かと子供扱いをするスピードルを毎度の如く睨み、一変して愛おしそうに掌を見つめた。
見つけたことがとても嬉しいようだ。
「で、なんで探したの?」
「えっ」
まさかそんなことを聞かれるとは思ってもいなかったは、途端頬を赤らめてしまった。
意外な反応にスピードルの関心も高まる。
「?」
「な、なんでもいいでしょ?」
ねーっ、とまるで猫に話しかけるようにクローバーに言った。
明らかに何か隠している。
しかし百面相の裏が読めないスピードルは、とりあえずカリーにでも聞いてみるかと思った。
は隠したがることは絶対話しそうに無いのだ。
クローバーを愛おしそうに見るに別れを告げ、スピードルは銃器ラボへ向かった。
「・・・いくらなんでも本人には言えないわよね」
残されたは、クローバーを見つめて呟いた。
自分はなんて乙女なんだろう。
でも四つ葉のクローバーの意味を知ったとき、欲しいと思ったのだから仕方ないことだ。
「あんな意地悪の何処がいいんだか」
思わず苦笑してしまった。
秘めた恋心を知ってもらうのは、クローバーだけでいいんだ。
今度は愛おしそうに四つ葉のクローバーを見つめた。
「カリー、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
銃の分解をしていたカリーは顔を上げて微笑んだ。
「何?」
「のこと」
彼女の名前が出ると、カリーはニヤニヤとし始めた。
「がどうしたの?」
「あいつさ、なんで四つ葉のクローバーを欲しがってたわけ?」
そう言うと、今度は嬉しそうに微笑んだ。
「あら、やっと見つけたの?」
スピードルが頷く。
「で、何でさ」
「私からは言えないわねぇ」
そう返したカリーは明らかに楽しんでいるようだ。
しかしその答えでは不本意極まりない。
「なんだよそれ」
「自分で考えなさい」
そう言うと再び銃の分解を始めた。
不服そうにカリーの手を見ていたスピードルだが、やがてラボを出ようとした。
「スピードル」
「何?」
「クローバーの花言葉知ってる?」
「知らないけど」
「調べてみたら?」
カリーからの小さな助言だった。
のラボに、再びスピードルがやってきた。
「スピードル、また来たの?」
スライドガラスから彼に視線を移したは、何だか嫌な予感がした。
表情が何処か勝ち誇っている気がするのは気のせいだろうか?
「」
「・・・何?」
「四つ葉のクローバーくれない?」
「え?」
側に置いてあるクローバーを見る。
さっきまであんなに馬鹿にしてたのに、どうして欲しがるのだろう。
「嫌よ」
不思議そうな表情をしながらもこう答える。
するとスピードルは 「そう言うと思った」 と言って白衣のポケットから袋を取り出した。
それはいつも証拠を入れるための小さな紙袋だった。
袋から取り出したのは・・・四つ葉のクローバー。
「あれ?」
思わぬものが出てきたため、驚いて指を差してしまった。
しかしスピードルはの反応を気にせず、それを彼女に差し出した。
「え?何?」
「いいから受け取って」
左手を掴んで掌を見せ、その上にクローバーを置く。
訳がわからないままは 「あ、有難う」 と言った。
「、俺のクローバーあげたよね」
「え?うん・・・スピードルの?」
「そう、俺の」
何か似合わないなぁと思いながら聞いていると、スピードルが微笑んだ。
「も何かくれない?」
「へっ!?」
まさかそんな事言うなんて思わなかったは、意味も無く慌ててしまった。
「え、え!?じゃあクローバーいる?」
四つ葉のクローバーを持とうとした手を掴み、スピードルは答えた。
「が俺のものになって」
「・・・え?」
さらりと何言うの、この人は!!
驚いて声も出なかったは、ようやく意味を理解した。
そして瞬く間に頬を真っ赤色に染めてしまった。
「ひょ、ひょっとしてクローバーの花言葉・・・」
「あぁ調べた」
「やっぱり!?」
恥ずかしい!!
下を向いてしまったを見て、スピードルはくっくっと笑っている。
「で?返事は?」
俯いたままだが、やがて頷いたのが解る。
スピードルは微笑み、何も言わずに彼女の頭を撫でた。
やっぱり、 “富” も “名声” も “素晴らしい健康” も欲しい。
だって “満ち足りた愛” だけじゃ一つ葉のクローバーになっちゃうから。
四つ葉のクローバーを手に入れたら、真実の愛が手に入った気がした。