Cheer it Up
メーガン・ドナーがCSIを去った。
それ以来、職場の空気が軽くない。
特に彼女の下に就いていたスピードルが、表情には出さないが落ち込んでいるみたいだ。
彼女ではなくホレイショの下で働いていたでさえもこんなに辛いのだ ―― ショックだったのだろう。
メーガンが去った分の傷は、相当なものだった。
出勤してきたは、ロッカールームに備え付けているベンチに座っているスピードルに気付いた。
「おはよースピードル」
は陽気な声をあげながら自分のロッカーを開き、ジャケットと鞄を置いた。
「あぁ」
いつもより低い声が背後から聴こえる。
振り向くと、スピードルが肩を落として座り込んでいた。
メーガンが辞めたことに関係があるとすぐ解った。
つい昨日、彼女が辞めたばかりだから落ち込んでいるのだろう。
はあまり事情を知らないが、デルコが言っていた ―― 夫を目の前で亡くし、半年ほど休職中だったと。
恐らくその傷が癒えていなかった・・・そして去って行ったと、は考えていた。
「大丈夫?」
スピードルの隣に座る。
彼はいつも以上にぼんやりとした目をに向けた。
「・・・ひょっとして寝てないの?」
「まぁね」
沈んだ声で呟く。
彼らしくなくて、は心配そうな表情になった。
やカリー、デルコはホレイショに引き抜かれたといっても過言ではない。
しかしスピードルの場合は、先にメーガンの目に留まったのだ。
実質的な上司はホレイショなのだが、昔からの上司はメーガンの方だったに違いない。
もともとスピードルは感情を顔に出さない。
それなのに、今回は落ち込んでいることが手に取るように解る ―― 相当参っているようだ。
「スピードル」
はそっと彼の右手を握った。
「あなたが気に病むことはない。そうでしょ?」
「・・・でもメーガンの気持ちを察してやれなかった」
確かに彼が一番近い存在だった。
だからってそんなに悔やむことは無い ―― はその気持ちを込めるように手を握り締めた。
スピードルは彼女の方にもたれかかり、目を閉じる。
彼の癖っ毛にそっと触り、は優しく微笑んだ。
「もっとメーガンの力になれば、彼女は辞めずに済んだかな」
「スピードル・・・あなたのせいじゃないのよ」
ねぇ、とそっとスピードルを抱き締める。
「私は旦那さんがいないよ。でも・・・同じ女性だからわかるの」
優しく耳元で囁いた。
「もし一番大切な人が目の前で死んだら・・・しかも仕事中に。私なら、いくら大好きな仕事でも辞めるわ」
彼は薄目を開けて彼女を見上げる。
「あなたが死んだとしても同じよ、スピードル」
見下ろして、彼女らしい笑顔を見せた。
スピードルは釣られるように微笑み、再び目を閉じた。
数分後、安心したような寝息が聴こえる ―― 眠ったようだ。
彼の髪を撫でながら、微笑ましく見つめた。
「疲れが溜まってたのね」
初めてみる彼の寝顔を見つめていたが、やがてとんでもない事態に気づく。
「・・・やばい、動けない」
もうすぐ出勤時間だ。
とりあえずは片手で携帯を取り出し、今の事態を上司に伝えるべくダイヤルを押した。