Last Name
 AVラボで、はいつもの様に雑誌を読んでいる。
 彼女の左薬指にシルバーリングがはまっていて、読んでいるものはブライダル雑誌だ。
 と生涯を共にするのは、隣で画像を解析しているスピードル。
 結婚なんて望んでないだろうと思っていた彼女は、今でも信じられなかった。
 だけど、よく考えたら結婚したって何も変わらない ―― メンバーも祝福してくれている。

 実感は湧かないが、数ヵ月後には隣に座る彼の元へ嫁ぐ。彼女はとても楽しみにしていた。
 仕事をしているスピードルの隣で、嬉々とした表情のはブライダル雑誌を捲っていく。
 ふと、彼が彼女の方を向いた。

「そういえば
「なにー?」
「どうすんの?ラストネーム」
 は雑誌からスピードルに視線を移した。
「・・・え?」





「カリー、デルコ!!」
 雑誌を持ったまま、がレイアウト室に入ってきた。
 2人は彼女の慌てように驚いたが、すぐニヤニヤと笑い始める。
「あら?スピードル夫人だわ」
「もう、からかわないでよー!」
 が雑誌をテーブルに置いて一喝した。
 くすくす笑いながらデルコが訊く。
「どうしたの?そんなに慌てて」
「訊きたい事があるの!ラストネームは変えなきゃ駄目!?」
 深刻な表情とは裏腹な疑問をぶつけられ、カリーとデルコは目を合わせた。
「・・・そうねぇ、私は変えないわ。親から貰ったものだし、大事にしたいもの」
 カリーが微笑んで言った ―― が、その隣でデルコが批判する。
「俺としては、同じラストネームにして欲しいけどね。共通点が出来るし」
 そうかしら?とカリーは首をかしげた。
「そんなの気にしない」
「俺は気にするよ。スピードルもそうなんじゃない?」
「男って解らないわ」
 怪訝な面持ちをするカリーをデルコは苦笑してしまった。

 ・・・どうしよう。
 2人の会話を聞いていたは苦悩の表情を浮かべていた。
 彼女としては変えたくない。カリーが言った通り、親から貰ったものの一つだからだ。
 の両親はもう居ない ―― だから残されたものを大切にしたかった。
 しかしスピードルはどう思うだろう?
 彼女は彼のことを愛している。だから彼の気持ちも大切にしたい。
 考えれば考えるほど混乱してしまう。

 は頭を抱えて、やがてレイアウト室を出て行ってしまった。
 そんな姿を見た2人は、お互い目を合わせる。
「幸せ者よね」
「ほんとだよ。あのスピードルとがなんてさ」
「驚いたけど、お似合いだわ」

 忘れられたブライダル雑誌をパラパラと開きながら、カリーは微笑んだ。





 腕を組み、首を捻りながらは再びAVラボに入る。
 変わらず仕事を続けるスピードルの隣に座って、小さな唸り声を上げた。
 彼は視線を彼女の方へ向けた。
「決まった?」
「んー・・・スピードルはどうして欲しい?」
 は彼に聞き返す ―― スピードルはきょとんとして、それからリモコンで映像を止めた。
「俺は変えて欲しい」
 やっぱりとばかりに彼女は再び腕を組んだ。
「でも、 “・スピードル” は何か合わないもの」
 ・スピードルも聞き慣れていないからか、変な感じがする。
 やっぱこの苗字はスピードルだから合うんだろうなぁなんて思ってしまった。
「 “・S・” じゃ駄目?」
 控えめな声で訊いてみた ―― が、意外にもスピードルはあっさり答えた。
「いんじゃない?」
「へ?」

 スピードルは再び映像を見る。
 隣に座る彼女は思わず拍子抜けしてしまった。
 すんなり引き下がるなんて思いも寄らなかったからこの後の言葉に困ってしまう。
 しかし、画面を見るスピードルの表情を見ていると何だか解った気がした。

 ―― もしかして・・・。
 思わず、くすくす笑ってしまった。

 立ち上がり、後ろからスピードルを抱き締める。
?」
 振り向こうとした彼の耳元で囁いた。



「大丈夫よスピードル、私の全てがあなたのものになることに変わりないわ」
 甘える声で言ったをスピードルは見上げ、いつもの笑顔を見せてくれた。




「なぁに?」
 スピードルの背に抱きついたまま、は返事をする。
 彼は彼女の手を握った。
「ファーストネームで呼んでよ」
 はぽかんとしたが、やがて明るい笑顔を見せた。



「大好き、ティム」
「知ってる」

 小さく呟き、彼女の唇を塞いだ。



■ author's comment...

 結婚シリーズ・・・なのだろうか(笑)
 婚約から結婚までの間の出来事ですよね、これ。
 スピードルって結婚しそうにないんですが・・・私だけか?(笑)
 でも思いっきり愛してくれそうですよね。
 ファーストネームで呼ぶのに慣れていないので、何か書く度照れる・・・

 date.06---- Written by Lana Canna


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