Pain is EVIDENCE of LifeTime #1
 マイアミ・デイド郡警察科学捜査課は近代的な機器が沢山置いてある。
 しかしこれらは全て犯罪現場無くしては使い物にならないものだ。
 そしてそこで働く職員たちも暇を持て余してしまう。
 もそのうちの一人であった―・・・





「チーフはビーチに行った事あります?」
 ソファに腰掛けたままは問いかけた。
 手持ち無沙汰に白衣の裾をいじっている辺り、彼女は暇だから此処に居るみたいだ。
 そんな彼女をホレイショは机から見ていた。
、今はビーチよりラボじゃないのか?」
「すること無いんだもん」
「だからって俺のオフィスに来てどうする」
 ホレイショはため息混じりに呟いた。

 此処はラボを出て階段を上った場所にあるホレイショのオフィス。
 近場にあるため、暇があればはやってくる。
 それほど上司を慕っているということなのだが、仕事中にも関わらずやってくるので少し困る。
 マイペースなところが長所のはずなのだが、ホレイショを含むメンバーはそんな長所に振り回されていた。

 今度は視線を合わせて問いかけてみた。
「チーフはビーチに行った事あります?」
「ビーチならしょっちゅう行ってるだろ」
「私だって仕事ならありますよ。」
 彼女はムッとする。どうやらホレイショの答えが不服な様子だ。
「バケーションで、ですよ」
「それは無いな」
「そうでしょ!?」
 グッと片手で握り拳を作り、は熱弁を続ける。
「マイアミに住んでるのにビーチで遊んだことも無いなんて、宝の持ち腐れです」
「別にそう思わないが」
「私は思います!!」
 今度は立ち上がって机の前まで歩く。
「マイアミに来て大分経つって言うのに、一度も遊んでないなんてダメです!」
「休暇に遊べば良いだろう?」
「それじゃ楽しくないです。CSIメンバーで行きたいですーっ!!」
「無理な話だ」
 問答無用で即答され、流石のもうっと言葉を詰める。
 確かにメンバー全員が休暇を取るなんて前代未聞とも言える事態だ。
 が力無く項垂れたその時、机の上に置かれていた携帯電話が震えながら鳴り響いた。
 突然の事にビクッと肩を揺らした彼女を見て笑い、ホレイショは電話を耳に当てる。
「ホレイショだ。・・・場所は何処だ?」
 きっと事件なんだろうなぁ。
 受け答えをするホレイショを見ながらはそう考えた。
「皆で行きたいなぁ、ビーチ・・・」
 目の前の上司は絶対承諾しないことくらい解っていたが、それが彼女の夢だったりもする。
 もうすぐ仕事が来ると確信したのか、踵を返してラボへ帰ろうとした。


 ふと呼ばれ、振り向く。
「何ですか?」
 ホレイショの表情はいつも通りだった。
「プライベートビーチの招待券が手に入ったぞ」
「えっ!?」
 今度は微笑んだ。
 その笑顔を彼女はどう判断したかは知らないが、それを見た途端嬉しそうな表情に変わった。
「行くか?」
「行く!」

 即答したは、その招待券が別の意味を示していたことを後に知る。





「・・・期待して損したわ」
 まぁそんなことだろうとは思ったけど。
 SUVから降りたは一瞬で呆れてしまった。
「どうだ、全員居るだろ」
 反対側に降りたホレイショは、二人分のフィールド・キットを持って現れた。
「確かに全員・・・居ますけど」
 不服そうにホレイショから受け取り、もう一度前を見据えてみる。

 確かにCSIメンバー全員が居た。
 スピードルとデルコ、カリーはフィールド・キットを持ってしゃがみこんでいる。
 そう、 “証拠採取” だ。
 3人の右側にはアレックスが居る。
 どうやら彼女の隣に横たわっている女性はもう生きては居ないみたいだ。
「プライベートビーチの招待券、ねぇ」
「願いは叶ったか?」
「・・・・・・わざとですね、チーフ」
 唸るような声を出し、ホレイショの隣を歩き始めた。

 それでも、は別にそこまで怒ってはいなかった。
 確かに彼女の夢は叶わなかったが、捜査に連れ出してくれたのだ。
 は分析力も優れているし科学捜査官として優秀だが集中力が途切れやすい。
 そのためホレイショは滅多なことでもない限り捜査に連れ出してくれないのだ。
 だから怒るどころか内心では喜んでいたりもするが、それは彼女だけの秘密である。

 とりあえずホレイショとはアレックスとカリーの元へ向かった。
 近づくと二人とも気配に気付き、振り向いて意外な表情をする。
「あら、じゃない」
 アレックスだ。頭を持ち上げて後頭部を見せようとしていた。
 それを見ようと前かがみになっていたカリーも顔をこっちに向けた。
「チーフと一緒に重役出勤?」
 何か変なことを考えているのか、にやけた表情になった。
 ホレイショはカリーの問いを軽く流して言う。
「何が解った?」
 少し面白くなさそうな表情に変わったカリーは、死体の後頭部へ視線を戻す。
 も見えやすい位置に移動して後頭部を見ていた。

「被害者はブリジット・マーティン、この大きなプライベートビーチの持ち主よ」
「うわぁ羨ましい」
 思わずは周りを見渡す。
 とても広々としていて、ホテルのビーチなんかよりも清潔感が漂っていた。
「発見者は使用人、5メートル向こうに浮いてたんですって」
 アレックスが片手を離して海を指差す。
「で、誰が此処に運んだんだ?」
「使用人よ」
「あーあ、現場を荒らしちゃった」
「この場合は仕方ないと思うわよ?」
 カリーの言う通り、放って置いても沖に流されるだけである。
 確かに、と頷いては口を開いた。
「死亡推定時刻は?」
「午前2時ってとこね。死因は失血死・・・まぁ海に浸かってれば当たり前だけど」
 アレックスは後頭部の中心を指差した。
 そこには小さな穴が開いていて、周りはグチャッと潰れていた。
 グロテスクな絵だが、そんなもの科学捜査官には通用しない。
 4人はその穴を見る。最初に口を開いたのはホレイショだった。
「カリー、これは射出口だな?」
「えぇそうよ」
 カリーはラテックスの手袋をはめた手で傷口を触り、続けて言った。
「22口径だわ。弾は恐らく浜辺か海の中」
「うわ・・・絶望的じゃない」
 は白い浜辺を見回した。
 もしかしたら波が押し寄せて弾を流したかもしれない。
 そんな可能性もあるなぁと一人考えていたとき、何か違和感に気がついた。
 無意識に歩き出す。


「デルコ、スピードル」
 二人の名前を呼ぶと、一斉に振り返った。
来てたんだ!」
「珍しい奴も居るんだな」
「まぁねー」
 それより、と彼女が浜辺を指差す。
「ねぇあの跡は何?」
「跡?」
 デルコがの指が示す方を見る。
 波が行ったり来たりと遊んでいるようだが、届いていないため跡が残っていたのだ。
 その跡は何かが引き摺られたようなものだった。
 近寄って写真に取り、調べ始める・・・すると決定的な証拠が出てきた。

「これ、弾丸じゃない?」
 フィールド・キットからピンセットを取り出し、は拾い上げた。
 半分ほど埋まっていた弾は小口径。
 カリーに見せれば解るだろうが、恐らく22口径だろう ―― 弾頭がぐしゃっと潰れていた。
 更にデルコがピンセットで新たな証拠を拾い上げる。
「じゃあこれは何だと思う?」
「・・・被害者の髪?」
「俺もそう思う」
 拾い上げたのは赤茶色の髪の毛。先に血が付着していた。
 被害者も同じ髪の色をしていた。
 恐らく彼女は此処に放置されていたのだろう。

 でも、そうなると一つの疑問が浮かんでくる。
「ねぇデルコ、彼女はここにいたのよね?」
「そうだけど?何」
「でも使用人は“5メートル先の沖”で見つけたって証言してた。何で?」
「そりゃ流されたんじゃない?」
 頭上で声がし、は上を見上げる。
 スピードルが彼女の背後に立って、デルコのピンセットを見つめていた。
「流された?使用人が嘘をついたんじゃなくて?」
「使用人は嘘をついていない」
 スピードルは親指で指差し、その先をは見てみる。
 その先にはバーンステイン刑事と、使用人と思われる人物がびしょぬれの格好で突っ立っていた。
「使用人にはアリバイもあるんだ、
 その先をデルコが受け継ぎ、続けた。
「しかもブリジットはその日出掛けて留守にしていた」
「嘘!?」
 だとしたら、何でプライベートビーチで死んでたんだろう?
 新たな謎の登場に、は軽い頭痛を覚えて頭を振った。





、スピードル」
 反射的に呼ばれたほうを見る。ホレイショだ。
 電話を持ったまま続けた。
「ホテルのプールに死体が浮いていると通報があった。此処はカリーとデルコに任せよう」
 そう言って踵を返し、SUVへ向かった。

 1度に2つの事件を扱うことは珍しいことじゃない。
 は二つ返事をしてスピードルと歩き出した。
「久々の捜査なのになー」
 珍しいことじゃないとはいえ、さっきの事件は名残惜しい。
 ぼそっと呟いたのが聴こえたのか、スピードルは微笑んで言う。
「これから行くとこも現場なんだけど」
「解ってるわよ」

 SUVにはもうホレイショが乗っていた。
 運転席に座っている。やはり自分で運転していくようだ。
 とスピードルを乗せ、再び現れた現場へ向かうべく走り始めた。



 誰も考えていなかっただろう。
 まさか結びついて “一つの事件” になろうとは。

 同日同時刻、2つの場所で殺人は起こった―――・・・・・・



■ author's comment...

 在り来たりな事件になりそうです。最初に言っておきました。
 いや〜コンセプトは “二つの殺人&一大事!” です。
 でもどっちも完遂させることが出来るのでしょうか・・・不安だ、とっても。
 文才のない私の表現だと微妙になるかもしれません。
 だっていろいろ難しいんですもん(涙)ちなみに現時点で2話書き上げました。
 書き上げられずに途中で打ち切り(ぇ)する場合もあるので、ご了承ください!!
 それでも最後まで書き上げたいとは思っているので、影ながら応援よろしくお願いします(苦笑)

 date.06---- Written by Lana Canna


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