Pain is EVIDENCE of LifeTime #4
 静かなラボで、は顕微鏡とにらめっこしていた。
 医者から処方された痛み止めを飲んでみたが、左腕を動かすと痛む。
 それでもブリジットとジェシカが死んだ理由が知りたい一心で顕微鏡を覗いていた。


「・・・やっぱり!」
 は期待ある声で呟く。
 ブリジットとジェシカの血液は、彼女たちが血縁だという証拠のDNAが詰まっていた。
 やはり姉妹だったのだろう、の推測は当たっていた。
 また、プールサイドで採取した血痕はブリジットとジェシカのものだった。
 ということは、殺害現場はあのプールサイドだ。
 だが、ブリジットがプライベートビーチに居た理由が解らない。
 ホレイショによれば、ジェシカの死亡推定時刻も午前2時。
 午前0時にプールは閉まるといっていたから、恐らく忍び込んだのだろう。
 そして、殺されて誰かに運び込まれた ―― 犯人に?
「・・・そういうことよね」
 しかし何故ブリジットだけ運んだのか、理由は定かではない。
 もっと証拠が必要だ。
 そう思って次に上皮組織を調べることにした。

 アレックスが言うに、ジェシカの長い爪の中に上皮組織が挟まっていたらしい。
 更にブリジットの歯にも上皮組織がびっしりだったとの事。
 これが犯人のものだったらどんなに楽か・・・と祈りながら顕微鏡を覗く。

「・・・これ、ブリジットのDNAじゃない」
 どういうことだろう?
 ジェシカの爪の中にあった上皮組織はブリジットのものだった。
 同じようにブリジットの歯にあった上皮組織もジェシカのものだ。
 その組織は少し古いもので、細胞が崩れていた。
 おそらく数時間前に挟まったのだろう。
 顕微鏡から目を離したは、一つの意見に達する。
「ひょっとして、喧嘩した・・・?」

 彼女の脳裏にブリジットの体が浮かぶ。
 無数の引っ掻き傷が腕や首元にあった、それは確かだ。
 ジェシカが傷をつけたのだとしたら ―― 上皮組織に挟まる理由にもなる。
 同じく、ジェシカにも引っ掻き傷はあった。
 上皮組織は手を洗ったりすると落ちるため、ブリジットの爪には残っていなかった。
 しかし彼女が噛み付いていたとしたら―――・・・?

 は右手で素早く電話を掛けた。
 機械音は瞬時に終わり、検死官の声が耳に届く。
『アレックス』
よ。ねぇアレックス、ジェシカの身体に歯形無かった?」
『歯形?えぇあったわ。確か首の辺りに』
「本当!?有難う!」
 これでの推測が正しいことが解った。
 電話を切ると、すぐに別の場所へ掛ける。
 ホレイショの声が聴こえ、は調べた内容を報告した。
 全てを話し終え、彼の反応を待つ。
 暫く経ってホレイショは思案するように言った。
『・・・、喧嘩の理由を突き止めろ』
「え、でも」
『まだ証拠は沢山ある。必ず何処かに理由があるはずだ』
 有無を言わさない口調で言い、一方的に電話を切られる。
 一見冷たい上司なようだが、には解っていた。
 確かに喧嘩の理由が鍵のような気がする。
 どうしても解明したいことがあると、ホレイショは手段を選ばないことくらい知っていた。

「・・・他の証拠を調べなくちゃ解らないわ」
 だが、何を調べたらいいかが浮かばない。
 思案する間、集中力が切れたのかは椅子を左右に動かす。
 やがて反動をつけすぎた椅子は180度回転して、彼女の目に見知った人物が映った。
「そうだ!」
 考えて解らないなら意見を仰ぐべし!は駆け出した。
 座り手が居なくなり、空しく椅子が空回る。



「スピードル!!」
 バンッとぶつかるようにラボのドアが開いた。
 突然目の前のドアが開き、何気なく通っていたスピードルは目を見開いて硬直する。
!?」
 目の前に飛び出した人物がだと気付き、愕然の声を上げた。
「大丈夫なのか?」
「だから大丈夫だよ。元気元気!」
 他のメンバーに見せたような笑顔を作ったが、スピードルは怪訝な面持ちをした。
「痛いくせに」
「へ?」
「あんま無理すんなよ」
 ポンポンと子供をあやすようにの頭を叩き、再び歩き出そうとする。
 そんなスピードルの後姿を、彼女は不思議そうに見つめる。 ―― なんで解ったのかな、と思いながら。
 暫く突っ立ったままだったが、ハッと気付く。
「待ってスピードル!!聞きたいことがあるんだってば!!」
 再び駆け出し、もう一度スピードルを驚かす破目になったのだった。



「そういえば、何するの?」
 やっと隣を歩くことが出来たは、まずスピードルの手を見てそう訊いた。
 彼は赤く濡れた手帳が入っているペイパックを持って歩いていた。
 袋の中は水滴だらけで、まだまだ水気が飛びそうに無い。
 それをの目線まで挙げると、不適に微笑んで言った。
「携帯は水に濡れて使い物にならないから、これを読もうと思ってさ」
 どうやらスピードルはプールの中の鞄を調べているようだ。
 は茶化すように言った。
「女性の手帳を見るなんて、趣味悪いわよ」
「あのな、これは証拠だ」
「解ってるって」
 スピードルの反応に満足し、は楽しそうに笑って訊く。
「で、どうやって読み取るの?濡れてるのに」
 彼女の問いに、不思議そうな視線で聞き返す。
、滲んで消えた文字を読み取ったことなかったっけ?」
「えっ!そんな事出来るの!?」
 仰天の声を上げる彼女をスピードルは呆れた視線を向けた。
 同じ科学捜査官のくせに一般人のように驚くな。 ―― そう言いたそうだが、口を紡ぐ。
 右に曲がって科学ラボへ入る。
 も慌てて曲がり、後を追ってラボへ入った。

 彼女が入り口で呆然と立ち尽くしている間、スピードルは着々と準備を始める。
 ペイパックから手帳を取り出して、丁寧にリングから一枚ずつ剥がし、再び袋に入れる。
 幸いにも手帳の枚数は20枚ほどしかなかったため、すぐ作業は終わった。
 全てを袋に入れ、スピードルは立ち尽くすに視線を移した。
「何してんの?」
「それはこっちの台詞よ」
 ゆっくりと隣に歩み寄り、彼の手を覗き込んだ。
「一枚ずつペイパックに入れてどうする気?」
「こうする」
 スピードルはまず1枚を小さな冷蔵庫のようなものに入れた。そしてスイッチを押す。
 機械音がして、暫く経つとその紙は取り出された。
 スピードルはピンセットで持ったペイパックをに向ける。
「掲げてみたら解るんじゃない」
 触るなよ、と念を押されながらは手を袋に近づける。
 ひんやりとした冷気が掌に伝わってきた。
「これ、どうしたの?」
「フリーズドライ。これで紙を傷めずに分析するんだ」
「へぇーそんなのがあったんだ」
 も知らない事だってある。
 感心したように頷きながら、スピードルの後を着いて歩く。
 彼はその袋をスキャナに挟んでパソコンに読み込ませ、あるソフトを起動させた。
 が見たことないソフトは、スピードル曰く「滲みを解析し、書いてあった文字を復元させることが出来る」。
 細かくマウスを動かしながら、黒く滲んだ文字を解析、復元させていった。
 黒い染みしか見えなかった紙に、小さな文字が生き返っていく。
、見てみろ」
「何?」
 右手で流れる髪を片方押さえながら、パソコンを覗き込んだ。
 そこに書かれていた意外な文章を目で読み、呆気にとられた声で呟く。
「・・・これ、ブリジットの手帳?」
「そうみたいだな」

 丸っこく可愛らしい字でジェシカの名前が書かれている。
 それも一箇所ではなく様々な場所にジェシカの名前が出ていた。
 姉妹で何処へ出掛けた、とか何をした、とか事細かに書き出されていた。
 これはブリジットが書いていた日記だ。は確信した。

「見た感じ仲良さそうな姉妹よね」
 2回目のフリーズドライ ―― 今度はも手伝いながら言った。
「そうだ、それでスピードルに聞きたいことがあったんだ」
「何?」
 水気が完全に飛ぶのを待っているスピードルが訊く。
 隣に立つは自分にも問いかけるような口調で続けた。
「仲の良い兄弟や姉妹が争う理由って何だと思う?」
「何それ」
「ブリジットとジェシカが喧嘩してた痕跡があったの。無数の傷跡よ」
 ふーん、と呑気な声を出したところで機械に“水気を取った”と報告され、パソコンへ向かう。
 次のページをフリーズドライするを見ずに言った。
の方がブリジット達に近い位置だと思うけど」
 喧嘩したことないの?と訊かれ、彼女は首を振って「無いよ」と返す。
「どんなときに喧嘩するかなぁ」
「さぁ?」
 カチカチ、とクリック音を響かせながらスピードルが続ける。
「意見が食い違ったとか ―― 逆に重なったとか」
「重なったって?」
 彼は手招きをし、は再びパソコンへ向かう。
 もう一度覗き込み、スピードルの意見がどういうことか理解することが出来た。
「なるほど、服や・・・彼氏の取り合いね」
 パソコンに映し出されている紙は、さっきと同じ日記のようなものだ。カレンダーの枠の中に小さな字で書かれている。
 このページには “ロイド” という名前がジェシカ以上に頻繁に登場していた。

『ロイドと食事に行った。とても優しい人で大好き』
『ロイドと映画へ。ロマンチックなものは好まないみたい。でも楽しかった』
『ロイドにジェシカを紹介した。二人とも気が合うみたいだった』

 目で読み終わったは、フリーズドライが出来た紙を素早く持ってくる。
 スピードルがスキャナに入れ、再び復元させていった。
 続きはこう書かれていた。

『ロイドとジェシカは親睦を深めるために食事に行ってる。仲良くなってるみたいで嬉しい』
『今日、ショックなことが。ロイドったら電話に出ないの。どうしたのかしら?』

「 “信じられない!絶対に許さないんだから、ジェシカ・・・!!” 」
 最後に書かれた文章だけが読む。
 この記事が事件の2日前、それ以降は何も書かれていなかった。
 それから何枚も復元したが、得られたのは二つだけ。
 最後の方に“午前1時にあいつと会う”と書かれた走り書き、そして謎の男の住所。
 ロイド・カーペンターという男はブリジットのプライベートビーチの付近に住んでいることが発覚した。
「キーパーソンは、この “ロイド” という男性よね」
 スピードルも頷き、報告をするべくホレイショに電話を掛けた。
 携帯で話すスピードルの隣で、は集中力を取り戻したかのように考えていた。
 恐らくロイドはブリジットの恋人だろう。
 ジェシカに紹介してから、何度も二人が親睦を深めるための食事に行っているようだ。
 そのうちロイドという男はジェシカになびき、それに気付いたブリジットはジェシカを恨んだ。
 だからジェシカを殺した?・・・だったら何故ブリジットも死んでいるのだろうか。


「え?」
「ロイドの家に行くことになった。来るか?」
「訊かなくても解ってるくせに」
 わざと笑顔を見せると、スピードルも微笑み返した。

 大丈夫、傷の痛みはさっきより軽くなっている。
 薬のおかげか、それとも事件の真相に近づいているからか。
 は彼と共にラボを出る。


 CSIメンバーは全員、唯一生きている人物 ―― 被疑者であるロイド・カーペンターの家へ向かった。



■ author's comment...

 この事件も次で終止符を打つことが出来るようです。
 えーと・・・今回もでたらめを並べてます(笑)
 手帳の文字を復元する方法があれでいいのか不安・・・。
 ちなみにフリーズドライ製法は本編を参考にしました。
 えーと、パソコンで滲んだ文字を復元する方法も本編を参考にしてるんですが。
 タイトルわかんない・・・“ルナ・ヌエバ”のヤツです!(笑)
 色々参考にしてる箇所が多かったりします。
 頑張れ・・・頑張れ私、書ききるんだ!!
 そうしたらまた短編書いてもいいんだから・・・(催眠)

 date.06---- Written by Lana Canna


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