Pain is EVIDENCE of LifeTime #5
 ブリジットのプライベートビーチから少し離れた場所に、ロイド・カーペンターの家はあった。
 日が沈んだばかりで、暗く閑静な住宅の前に、サイレンを轟かせながら何台もパトカーが止まった。
 中には覆面パトカーもあり、そこからセヴィリアが出てくる。
 そして一番後ろに “科学捜査班” と書かれたハマーが止まった。
 ホレイショを始めとし、メンバー全員がフィールド・キットを持って車から出た。
 犯人がロイドなら銃を持っているかもしれないということもあり、先頭をセヴィリアに任せる。
 その後に科学捜査官たちが入ることになった。

 全員が銃を用意する中、ホレイショがの側まで歩み寄る。

「はい?」
 フィールド・キットを置いて彼女は振り返った。
 ホレイショは真剣な面持ちで続ける。
「クリアの声が聴こえるまで入るな」
「え、何でですか」
 除け者にされたような気分には不服の表情をした。
 だが、ホレイショは続ける。
「いいから入るな」
 念を押すように言ってセヴィリアの元へ向かっていった。
「・・・何で!?」
 残されたは何が何だか解らないようで、思わず首を捻ってしまった。
 見かねたデルコが彼女の隣に並んで一言。
「それ以上怪我させたくないんだ」
「へ?」
 きょとんとした表情でデルコを見る。
 彼は微笑み、彼女の肩に手を置いた。
「だから俺らもチーフに賛成」
 気付けばカリーやスピードルも訊いていたみたいで、彼女の近くで頷いている。

 そんなことを言われると、従わざるを得ないじゃない。
 は仕方なく微笑んで頷いた。


 一抹の緊張が走る。
 セヴィリアの指示を受けた数人の警官が勢いよくドアを開けた。
 家の中は真っ暗で、誰の気配も感じられなかった。
 しかしセヴィリアは叫んだ。
「マイアミ・デイド警察です!!」
 誰の返事も無い。
 少しずつ先に進みながら、もう一度叫んだ。
「警察です!!」
「ロイド・カーペンターさん!!」
 ホレイショも同じく叫ぶ。
 だが、二人の声が空しく消えていくだけで他の声は聴こえなかった。

 念のために全部屋を見る。
 全員が銃を持ち、警戒した面持ちで部屋の中を一つずつ見て回る。
 は外で待っていたが、一つずつ部屋の電気が付いていったのが解った。
 そして家中の電気が付いたとき、ホレイショの声が外まで響き渡った。
「クリアだ!!」
 待ちに待った声を聴き、フィールド・キットを右手に持った。
 がひょっこりドアから家を覗く。
 ロイドの家は見た目より広く、玄関に入ってすぐ通路と階段が見えた。
 階段からカリーとスピードルが降りてくる。
 外から覗き込むように見ていたを見て、カリーが微笑んだ。
「もう大丈夫よ」
「何してんの?」
「ちょっと観察・・・してたの」
 お邪魔しまーす、と弱腰で入る。
 玄関を上がり、まずは通路を歩いた ―― リビング・キッチンへと繋がっているのだろう。
 ゆっくり隅々まで観察しながら進んでいく。
 やがて突き当たりのドアまで歩く。
 扉を開くと、意外にも狭いリビングが広がった。
 狭いのは恐らく家具がひしめき合っているせいだろう、そこにホレイショとセヴィリアがいる。
 どうやら消えたロイドの行方を話していたらしい ―― 二人はのほうを向いた。
「入ってきました!」
 元気にそう言って机にフィールド・キットを置く。
 ホレイショとセヴィリアは笑顔で迎えてくれた。
「それにしても、ロイドは一体何処に行ったんです?」
「・・・わからない」
 悔しそうに呟くホレイショを、セヴィリアは真剣な表情になって見る。
 はそんな二人から視線を外し、フィールド・キットからラテックスの手袋を取り出す。
 手袋を装着し、まずは一番近場の机上を調べ始めた。
 何処へ行ったか、早く手がかりを見つけなければ ―― 机上に広がる手紙にそのヒントが隠されていればいいが。
 は一枚ずつ読んでいった。
 殆どがジェシカからの手紙のようだ。愛を語る記録が残されている。
「・・・ん?」
 ふと、一枚の紙を拾い上げる。
 これもジェシカからの手紙なのだが、此処に気になる場所が指定されていた。

『親愛なるロイド
 ブリジットから連絡は来た?あの女ったら私を恨んでるみたいなの。
 そろそろあの女と話し合いたいと思うの。いつものホテルに来てくれるかしら?場所は最上階、買い取ったわ。
 カードキーはいつものようにマネージャーから受け取って
                                           ジェシカ』

 恐らくこれらの手紙は封筒に入れず、直接誰か ―マネージャーだろう― が届けているようだ。
 この手紙は何か引っかかる。
 は振り返ってホレイショの名前を呼んだ。
「チーフ、これ見てください」
「どうした?」
 素早くホレイショがの隣に並んだ。
 そして手紙を受け取る。
「どう思います?」
 速いペースでジェシカからの手紙を読み、のほうを向く。
「なるほどな。買い取ったのなら宿泊記録には無いはずだ」
「やっぱりあのホテルだと思いますか」
「是非そう願いたいものだな」

 セヴィリア!と大声で呼びつける。
 電話を掛けていたセヴィリアはホレイショとのほうへやってきた。
「奴はシェアリゾートホテルの最上階だ」
「なんですって?」
 セヴィリアは我が耳を疑った。
 ジェシカ・マーティンは “シェアリゾートホテル” 死んだというのに、何故ロイドはそこに居る?
 しかしホレイショは手紙を見せてこう言った。
「俺たちは従業員じゃなくて支配人に事情を訊いたほうが良かったみたいだ」
「・・・そういうことね」
 セヴィリアは踵を返して素早くリビングを出て行った。
 ホテルの最上階へ向かうのだろう ―― は不思議そうにホレイショを見る。
「チーフは行かないんですか?」
「まだ捜査は始まったばかりだ。はロイドの車を調べてくれ」
 指示を出し、ホレイショは微笑んで彼女を見返す。
「よくやった」
 一言洩らし、彼はキッチンへ向かうように去って行った。
 はホレイショが去った後で、笑顔になる。
「・・・褒められちゃった」
 かみ締めるように良い、フィールド・キットを持って最後に部屋を出た。





 ガレージに来たは、近くにフィールド・キットを置いて辺りを見る。
 此処は車庫と言っても家の隣に屋根がついているくらいで、裏口からすぐに訪れることが出来るみたいだ。
 実際リビングの大窓が隣にあり、ここから中の様子が見える。
「さて、ちゃっちゃとやろうかな」
 はフィールド・キットからライトを取り出し、車の中を調べ始めた。

 ドアを開けてまず思ったのは、 “血生臭い” 異臭だ。
 まずライトを置いて、次にルミノール試薬を取り出す ―― そして顔をしかめる。
「・・・そういえば補充するの忘れてた」
 3分の1ほどしかないルミノール試薬は、前にプールサイドで使ったっきり彼女の記憶から消え去っていた。
 他の方法で血痕反応を見ようかと考えたが、どれも良い案ではない。
 オルタネイトライトなど、全て大きな機械を使ってしまう ―― 出来る限り片手で出来るものが良い。
 そう考えると、やっぱルミノール試薬の方が今の彼女には使い勝手が良いのだ。
 仕方なく立ち上がり、隣の大窓を叩く。
 そこで調べていたスピードルが気付いて開けてくれた。
「どしたの?
 きょとんとする彼にが素早く説明をする。
「ルミノール試薬貸して。補充するの忘れてた」
「相変わらずドジだな」
「煩いわよ」
 私だってあの時刺されなければ忘れなかったんだから。
 そう言いたそうに見上げるを暫く見ていたスピードルは、近くにあったフィールド・キットから試薬を取り出す。
 投げると見事彼女はキャッチした。
「補充して返せよ」
「解ってるってば」
 何気ない会話をし、が踵を返して再び車へ戻る。
 スピードルも捜査を始めたが、窓を開けたままにしているのは彼なりの思いやりだろう。
 彼女も、何か見つかればすぐに呼べるため、何も言わずに捜査を再開した。

 運転席のシートに自分の試薬を残り全部かけてみる。・・・反応は無し。
 次にハンドルなどの機器にかけてみた。すると青白い反応が見える。
「・・・誰かが血まみれの手でハンドルを握ったわけね」
 青白い反応は手形のようにくっきり移っている。
 ハンドルを写真に撮って、次は助手席にかける ―― スピードルの試薬で。
 すると、かけた場所が青白く光った。
 たった3回吹き付けただけなのに、こんなに光るなんて思っても見なかったは驚いてたじろいだ。
「何これ!?痛っ!」
 たじろいだことにより左腕をドアに打ってしまったのだが、それよりもこの光に仰天してしまった。
 彼女の声が窓を越えたリビングまで聴こえたらしい。スピードルが側までやってきた。

「へ?」
「何が痛いって?」
「いいの・・・打っただけだから」
 涙目でそう言う彼女を不思議そうに見たが、その向こうにあった青白い光を見て驚く。
「今、ルミノール反応が出てたか?」
 もう消えかけていた反応だが、スピードルにもわかったようだ。
 は頷いてもう一度試薬を吹き付ける ―― 今度は座席中に。
 そこに広がった光は、プールサイドで見た以上の輝きだった。
 二人は呆然とその光を見つめてしまった。
 まさかこんなに反応が出るなんて思っても見なかったことだからだ。

「もしかして、この血痕・・・」
 は思案しながら続けた。
「ブリジットのものじゃない?」
「ロイドが死体をプライベートビーチに運んだわけだな」

 頷いたは、助手席のダッシュボードを開けてみる。
 確かな証拠が欲しいのだが、その願いはすぐに叶えられた。
 ゴロッと転がり落ちてきたのは、小口径の銃器。
 護身用なのか、小さいシルバー製の銃だ ―― 詳しい口径はカリーに頼めばいい。
 丁度その時、大窓の方から待望の人物が声をかけた。

「スピードル?何してるの?」
 カリーが不思議そうな表情を向けていた。
「リビング担当でしょ?」
「カリー、これ見て!」
 近づいた彼女にが銃を見せる。
 銃を見た途端カリーの目が輝く。渡すと隅々まで観察を始める。
「これ・・・22口径ね」
「ダッシュボードに入ってたの。凶器かな?」
「詳しくは調べないと解らないけど・・・そうみたいよ」
 此処を見て、と銃口を2人に見せる。
 内側に血痕が付着している。近場で撃ったときに跳ね返って着いたのだろう。
 スピードルは呟くように訊いた。
「誰のだと思う?」
「ブリジットでしょ」
 が不適に微笑んで答えた。
 決定的な証拠と言っても過言ではないのだ ―― 丁寧に綿棒で拭った。
「とりあえず今までのことをチーフに報告してくるね。チーフ何処?」
 は綿棒をフィールド・キットに入れて2人に尋ねる。
 スピードルは肩を竦めたが、カリーが答えた。 「洗面所に居たわ」
「じゃあ行ってくるね」

 2人に見送られながら大窓から入り、洗面所に向かう。
 通路を歩いて右のドアを開ける。ホレイショはそこで電話をしていたようだ。
 短く話して電話を切り、のほうを向いた。
、どうした?」
「ロイドの車から血痕を採取しました。助手席にかなり着いてたんですよ?
 恐らくブリジットのものでしょう。あとダッシュボードから血痕が付着した銃が見つかりました!22口径です」
「そうか」
 電話をポケットにしまうと、側に置いてある袋を持ってに渡す。
「これ、何ですか?」
「ロイドの服だ」
 袋を開けて中を見る。血だらけのシャツとズボンが収まっていた。
 やったとばかりにの表情が明るくなる。
 ホレイショは彼女が視線を戻すのを待って、続ける。

「全てを分析してブリジットと比較しろ。最優先だ」
 最優先?は首をかしげて訊く。
 ホレイショは頷き、微笑んだ ―― 先ほどのと同じ、不敵な笑みだ。



「ロイドが見つかったぞ」



■ author's comment...

 大変だ・・・6話目を書く破目になってしまった(笑)
 6話目がとてつもなく短くなってもいいですか??なりそうな予感です。
 とりあえず終盤に差し掛かってます。
 もう犯人は解りますよね。最後のどんでん返しをしたいけど、そこまで考えられない・・・。
 そのまま突っ走ります、本当に!!(ぇ)
 あと、もう一つ。
 何となくホレイショさんとスピードルの絡みばっかりな気がしてきた。
 デルコごめん、絡みづらい(涙)
“○○寄り” とかはないです。だって事件ものだし。
 でも最後はホレイショさんで終わるって決めてるんです!ドラマでもそうだし。
 頑張れ私っ!!

 date.06---- Written by Lana Canna


← back to index
template : A Moveable Feast